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猫がかわいくなかったら  藤谷治 中公文庫 20260316


ご近所の老夫婦が相次いで入院してしまい、部屋には二人にかわいがられていた一匹の猫が残された。そのままだと飼い主不在の部屋で放置されたままになってしまう。まさか放って置くわけにはいかない。

定年まであと四年の吉岡と妻の多恵子の、いつ終わるともしれない、気力、体力ともに削ぎ落とされる日々が始まる。


猫をめぐる楽しいお話かと思ったらかなりシビアなものだった。でも実際にこういうことが今の世の中あちこちで起こってるだろうなあ、というお話でもありました。

ほんとこれは、高齢者とペットこがれからさらに増えるだろうからなんとかしないといけない日本の大問題。政治家の人たち、しっかり考えてください。

あと思ったのは「親切」というと、他人の、何か小さな困りごとを「ちょっと」お手伝いしてあげて感謝される、みたいなイメージだったのが、この作品の吉岡夫婦のご近所さんにしてあげる「親切」がそれとはまるでかけ離れたものになってしまったなあ、ということ。ほんと、お疲れ様でした。










侠飯4 魅惑の立ち呑み篇  福澤徹三 文春文庫 20260301


悪政治家、肝付泰造の秘書として働く藤堂旬一郎、28歳。

なかなかしっかりした休みも取れず、日々朝から晩まで多くの業務をこなす。

そんな彼が唯一気を休めることのできる場所が職場近くの立ち飲み酒屋「チドリヤ酒店」。そしてその店を一人で切り盛りしているのは、小梅という、旬一郎がその笑顔に惹かれている一つ下の女性だった。

ある晩、旬一郎がチドリヤ酒店に寄ると、見知らぬ二人の男がいた。彼らは酒造メーカーの人間で、立ち呑みチェーンを展開するためのレシピ開発にチドリヤを使わせてもらうのだという。そして一人の目つきは鋭く、頬に傷があった・・・。

いまハマっているシリーズの四巻目。今回の主役は悪徳政治家の秘書。はじめの方で彼の仕事内容が描かれるけど、ほんと、政治ってセコいことしてまでも金集めないとなにも始まらないのか、と考えちゃう。

どんなピンチが訪れても最後は柳刃さんたちが解決してくれるんだ、という安心感があるけども決してマンネリではないからまったく飽きることのないシリーズです。







映画化決定 友井羊 集英社文庫 20260123


漫画家志望の高校生ナオトは、昔描いた、自分の中でも傑作と思える「春に君を想う」を映画化させて欲しいとの申し出を映画部のハルから受けるのだが・・・。


高校生にして早くも実力を発揮してコンクールでグランプリ獲得もしている木崎ハルというキャラクターが強烈な作品。

映画作りの現場のありがちな出来事(たぶん)がたくさん出てくるのが楽しい。







侠飯6 炎のちょい足し篇  福澤徹三 文春文庫 20260120


27歳だけど引きこもってゲームばかりの日々を送る風見蓮太郎。見かねた父親に強引に自立支援施設に入れられてしまう。しかしその施設は、悪徳施設長が牛耳る不正の横行するインチキ施設だった。
そして施設の近くのさびれた食堂には、少しの手間で食材を最高の味に仕立て上げる、頬に傷のあるあの男がいた・・・。

これまた大満足の一冊。今作の主人公はほんとに行き詰まっちゃってる、働きもせず毎日がゲーム三昧の青年なのだけど、柳刃のおかげで目覚め、行動に出て現状を打開して新たな一歩を踏み出すことに成功。お見事な結末にスッキリ!







侠飯5 嵐のペンション篇  福澤徹三 文春文庫 20260117


奥多摩のペンションのアルバイト、湯原和斗24歳。まだやりたいことが見つからない。

宿泊客のフリーライター葉月によると、まもなく時効となる10年前の5億円強奪事件に使われた車がこの付近に乗り捨てられていたという。5億円はこの近くに隠されているかもしれない。

他の宿泊客はみな怪しい者ばかり。そんな中、新たな客、頬に傷があり、目つきの鋭い、そしてなぜか料理に精通している男がやって来た・・・。



うだつの上がらない上に切羽詰まった状況に陥った青年が、おっかない謎の男から料理の技と生き方を教わる。

そして周辺で起きたミステリーをその男が解決し、青年に別れを告げ去ってゆく。

青年の心にはもはや迷いは無く、次のステップへと歩き始める・・・

みたいなお決まりのパターンが確立されていて安心して読めるシリーズ。

水戸黄門じゃないけどそれに近い、完成度の高い作品だ。偉大なるマンネリ。言う事なしです!!







パンとスープとネコ日和 群ようこ ハルキ文庫 20251227


突然亡くなった母の営む食堂を継ぐことになったアキコ。

継ぐ、といっても母が切り盛りしてたような、常連さんたちが酒を飲んでワイワイやるような店ではなく、料理も内装もシンプルな店だった。

出版社勤務時代に得た知識や人脈をもとに、食材にこだわり、ともに働く相手を面接で選び、着々と準備をすすめるアキコ。

そんな彼女の唯一の家族は、ネコのたろだった・・・。

大事件が起きるわけではないけど、なぜかどんどん読み進めてしまう。そして「派手じゃなくて、こういうしみじみするお話もいいかな」と思って読んでいたら終わりの方で、けっこう個人的にはずーん!、とくるエピソードがあって驚いた。と同時にアキコさんの気持ちに「わかるわかる、そうですよねえ。そんなことがあったらそう考えちゃいますよ」と寄り添い、頷きながら読んだ。







食い意地クン 久住昌之 新潮文庫  20251208


「孤独のグルメ」の原作と、テレビ化されたときの、番組最後に登場して主人公である井之頭五郎が入った店を実際に訪れていた方の著書。

その他多くの著作がありそう。かなり前に読んだ、夜行列車に乗る男が弁当のおかずの食べる順番に悩みまくるのもこの方の原作のはず。あれも大笑いでした。

今作は、カッコつけた食べ物ではなくてラーメンだったりカレーだったりおにぎりその他お茶漬け、焼きそば・・・などなど身近な食べ物が続々登場して「そうそう、わかるわかる!」と納得できる目線の美味しさポイントがたっぷり詰まった一冊。

なかでも一番共感したのは「大根」かな。鍋とかうどんに入れて食べるのが大好きなので。もちろん大根おろしも美味しい。







侠飯3 怒涛の賄い篇  福澤徹三 文春文庫  20251203


ヤミ金業者店長で、どんな手を使ってでも金を取り立て成績を上げいつか足を洗い合法的な事業をはじめる、それだけを考える渋川卓磨27歳。

あるやくざの組長宅の地上げを命じられるが、それは一度も逢ったことのない祖父の組だった。

渋々交渉に向かったが頑固な祖父、伊之吉は決して立ち退きに応じようとはせず、成り行きで卓磨は行儀見習いとして住み込むことに。

そして謎の客人、目つきが鋭く、頬に傷のある男が現れる。彼はしばらく厄介になる礼にと、毎日の食事を作るという・・・。


シリーズ第3弾。今回はある組長宅が舞台。最後は無事問題も解決してほっこりするから安心して読める、と思うけれどそこにいくまでには、祖父に立ち退きを説得させる期限が迫り、追い込められる卓磨の苦しみがあったりしてハラハラさせられて結局あっという間に読み終わっちゃった。

柳刃、火野の二人はもちろん渋川組の皆さんに加えて梨江ちゃんもよい雰囲気。それぞれを深掘りしてもっと長くしても構いません!というくらい面白かった。







侠飯2 ホット&スパイシー篇  福澤徹三 文春文庫  20251128


まともに働いてたのに、いわゆるリストラ部屋へ送られた真鍋順平28歳。元の部署に戻れそうもなく、働く意欲も無くし、不安だらけの日々。

そんなある日、同じくリストラ部屋に送られた同僚と昼ごはんの店探しに苦労していると、会社の裏側の空き地に停まっているキャンピングカーで500円の日替わり弁当を販売しているのを発見。

その味は今の最悪の状況を忘れさせるほどの美味だった!そして店主は無愛想で、頬に傷のある、どう見てもおっかない男だった!!

だいぶ前にこの前作のドラマ化されたものを見てあまりに面白かったので原作も読んでみたました。文字で読んでも面白いかな、と不安もあったけどそんな心配は無用だったし、今作も読み終わるのがもったいないほどあっという間に終わっちゃった。こちらも同じキャストで映像化希望です!!







二度目の過去は君のいない未来  高梨愉人 集英社文庫  20251122


列車に飛び込もうとする教え子の少年を助けようとホームに降りた教師とその妻。気がつくと二人は10年前にタイムスリップしていた。しかも教師は大学生、妻は小学六年生の姿となっていた・・・。

時間ものは好物なので楽しめたのだけど、ああいう終わり方だったのが自分としてはちょっと残念。カッチリ終わらせて欲しかったかな。

「結局あの件はどうなったのかな?」と考えちゃう箇所が残っちゃってて。かなり魅力的なキャラクターが途中から出てきたのに宙ぶらりんのまま終わるのかあ、とか。

「テセウスの船」というドラマのときも似たようなことを思ったような。

でも余韻を残したかったのか。それかもしかして続きがあるのかな?







強運の持ち主  瀬尾まいこ 文春文庫 20251112


短大を出て就職したものの、上司と会わず半年で辞めてしまい、バイト情報誌で見つけた占い師の仕事をするルイーズ吉田こと吉田幸子。

彼女のもとを訪れるのは、母親と父親のどちらを選ぶべきかに迷う少年、ある男性を振り向かせる方法を求める女子高生、「おしまい」がわかるという謎の関西の青年などなど・・・。


この作家さんのお話、というか主人公たちのやりとりってほのぼの、ともほんわか、まったりというのとはまた違う柔らかい感じがして読んでいてとても心地よいのです。

今作だとルイーズと、一緒に暮らす通彦との場面。会話と同時に進行する通彦アレンジの楽しい異物が入った料理が出てくる食事シーンにもニンマリしてしまう。

そしてまたこのお話も、他の作品同様終わり方が文句無しなのでした。







気がつけば、終着駅  佐藤愛子 中公文庫 20250812


1923年生まれの大作家の「婦人公論」における50年に及ぶエッセイの数々。

どれもこれも思うがままに本音をぶちまけてるのが爽快。

壮絶な人生なのに思わず笑っちゃうエピソードもたくさんあったりする。

そんな中にあってシリアスに突き刺さったのが

「戦争を体験したことで、国はかならずしも国民を守ってくれないということが身に染みましたのでね」

という言葉。戦争なんてろくなもんじゃない。










老残のたしなみ 日々是上機嫌  佐藤愛子 集英社文庫 20250802


年をとること、健康のこと、子育て、教育、報道のあり方、いたずら電話、友情、読者、霊能力などなどありとあらゆることについてのエッセイ。

もっと早くに読んどくべきだった本の一冊!こんなに面白くて痛快で「そうそう」と頷きながらすらすら読み進められるのだから売れるわけだ。

だから今の世の中なんだかおかしい、と思っててこれを読んで「やっぱり今の日本はおかしいや」と再認識してる人もたくさんいるはず。







憲法9条を世界遺産に   太田光 中沢新一 集英社新書 20250729


正義なんて、国ごとにどころか、それを意識する人によってさえまるで違うわけだから「これが正義です」なんて定義するのは不可能。

でも「人を殺しちゃいけないよ、戦争はいけないよ」っていうのだけは絶対のはずだから、戦争を放棄するこの九条は変えちゃいけないのではないか。

あっ、でも、もし宇宙人が攻めてきてみんなが一致団結して戦うのはいいのかな?







シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル 集英社文庫 20250714


シャーロック・ホームズという名探偵が・・・なんて説明は不要でしょう。

久しぶりに読みたくなった。

この「傑作選」には残念ながら宿敵モリアーティ教授は出てきませんが、あの「アイリーン・アドラー」登場の話は収録されてました。

久しぶりに読もうと思ったときに、また語り手であるワトソンへのキツい突っ込みを楽しむめるかと期待しちゃったのだけれど、今回の収録作にはあんまりそういう要素は無くて、逆にワトソンを友と認めるセリフがちらほらと見受けられたような気がします。

それにしてもこのキャラクターほど手を変え品を変え映像化された人はいないんじゃないかと思うくらいの大ヒットキャラクターですね。

むかーしNHKでもやってたジェレミー・ブレットという渋い俳優さんのテレビシリーズが決定版らしいです。確か吹替が「太陽にほえろ」の山さんだったかな。







賢者はベンチで思索する 近藤史恵 文春文庫 20250701


久里子は近所のファミレス「ロンド」でウェイトレスとして働く21歳の女の子。といってもアルバイト勤務なので将来への不安もあるし、篭りがちな弟、職場の新人で気になる男性の存在・・・などなど悩みは尽きない。

そんな久里子の周りで起こる幾つかの事件と、解決へと導いてくれる意外な人物・・。

面白かった!ピシャッと見事に決まる結末ではなくて、ほろ苦い部分もあるけれども、すべてが良い方向にへ向かうだろう的な終わり方が素晴らしい。









ビートたけしと北野武 近藤正高 講談社現代新書 20250615


「大久保清事件」、「三億円事件」など映像化された事件とともに、当事者を演じたたけしを論じた一冊。

昔から、実際の事件を題材にしたたけし主演のドラマがときどき放送されてることは気づいていたけれど、見たことは無かった。再放送してくれないかな。事件をもとにしものではないけど「刑事ヨロシク」もまた見たい。






大人になったら、 畑野智美 中公文庫 20250531


カフェ、キートスで副店長として働く葛城命(メイ)。35歳を迎えた彼女は、仕事に頑張り、何でも話せる友人にも恵まれてはいるが、8年前に長く付き合った相手と別れてからこれといった出会いも無いまま。

なのだけれど生意気な後輩と衝突したり、今後のことに悩んだりの毎日のなかで変化ははじまりつつあった・・・。


初めて読む作者さんだったけど大当たりでした。単純に「あーよかった」だけじゃない、いろいろ悩みまくったけど相応しい相手と出会い、無事にふんわり着地するような終わり方も最高。

大切な友人であるみっちゃんに大ちゃん、キートスの常連の鯨岡さんに羽鳥先生、ちょっと生意気な後輩、杉本くんにバイトのレナちゃんや行きつけのバー、ストロボのマスターなどなどメイを取り巻く人たち、一人一人、それぞれの立場で一生懸命に考えて生きているのだなあ、と。




映画を早送りで観る人たち 稲田豊史 光文社新書 20250520


今の世の中、映画やドラマを早送りで観る人が大勢いるという。
それはなぜか。いつ頃からなのか。どういう人たちがそうしてるのか。

映像作品を早送りで観てしてしまう人たち、そして、せっかくの作品をそのように「消費」されてしまう作り手側双方の考え、思いを取材しその大きな疑問の答えを求める一冊。


・あらかじめストーリーが分かってからでないと観ない

・好きな俳優の場面以外は飛ばす

・主人公が苦労する話は嫌い

この本の中には、上記のような人たちがいるという衝撃の事実が多数出てくる。

ただし、そうすることになった大きな原因として『圧倒的な時間の足りなさ』があるということがわかると、そりゃ仕方ないや、とも思ってしまう。

でもそういった人たちが多数になれば(もうなってる?)、それが「常識」になってじっくり1倍速で観る人が変な目で見られちゃうのか?

それは一生懸命に作品を作り上げた人たちも嫌になっちゃうだろうし、なんか寂しい。

やっぱり作り手が意図して見せてくれる、独特の間だったり、「えー、なにそれ!」という心地よい驚きなどで我々を楽しませてくれるのが映像作品だと思うのだけれども・・・。


おんぶにだっこ さくらももこ 集英社文庫 20250511


幼少時代のさくらももこ、ももちゃんなりの考え、悩みが爆発した一冊。

子供の考えることだし、微笑ましいな、というだけの話には思わない。まだ広がっていない知識の限りを尽くして想像した結果恐ろしい結論に達してしまい恐怖する。

大人からすると笑っちゃうエピソードの数々かもしれないけれど本人にとっては大問題。

「大規模な心配」など、わかるよ!わかりますよ!と言ってあげたくなったり、最大級に切なくなる箇所がいくつもあったり。







ハッピー・チョイス 中島たい子 集英社文庫 20250504


39歳の独身女性作家、本田貴世(きよ)。彼女が蕎麦打ち合コンで知り合った男性と理想の結婚を目指すお話。

理想の男性を求めてドタバタ奮闘するコミカルなお話と思いきや、かなり「結婚」というものを本気で考えるお話でした。楽しいながらも真面目な小説。

主人公である貴世の担当の小野くんや、主人公の両親など出番は少ないながらも面白い人たちが印象的。

そして何より、あそこまで頑張ってからの結婚パーティーでの貴世のまさかのスピーチ!

これにはビックリでした。




怪笑小説 東野圭吾 集英社文庫 20250411


昔読んだ同じ作者さんの「毒笑小説」を勧められて読んだときは本当に大当たりで大笑いできたのだけど、これまた笑うお話しのオンパレード。

と思っていたら、突如としてあまりにも切なく、あまりにもやるせない、余韻が半端ないお話の登場には驚いた。ぜひぜひいろんな人に読んで欲しいお話。だって誰もがぶち当たる、避けられないことについてのお話だから。

あんなに短いのに主人公の心情の移り変わりがすごい密度で容赦なく降りかかってくる。










シカゴ・ブルース フレドリック・ブラウン 創元推理文庫 20250320


父親を何者かに殺された青年エド・ハンター。叔父のアンブローズと共に犯人探しに乗り出す。


昔からこの作家さんの「SFっぽい」短編はよく読んでいたけれども、ミステリはほとんど読んだことが無かった。長編も「発狂した宇宙」と「火星人ゴーホーム」くらいかも。

この作品、犯人捜しの物語ではあるけれども同時にエドの成長物語でもありました。アンブローズにしごかれながらの成長かと思いきや、この叔父さんがあれこれと探偵業の指南をしてくれるのだけれど、彼に対する接し方が優しくて、また粋なのがたまりません。

エドは18歳、印刷会社の見習いなのに、親を何者かに殺されるというショッキングな出来事にもめげず頭を回転させ次々と起こるピンチに対処していく。人によっては都合よいな、と思うかもだけれど私は逆に頼もしいなと思ったので心地よく読み進められました。

あと、エドの前に現れるある女性とのやりとりも何ともいえない余韻があってよいです。

アンブローズ叔父さんとの活躍がシリーズ化されてるとのことなのでいずれ読んでみたいところ。










アウルクリーク橋の出来事 ビアス 光文社古典新訳文庫 20250311


「悪魔の辞典」で有名な作家さんの短編集。皮肉たっぷりのお話がたくさん収録されてるのかと予想したけれども、どことなく幻想的な幽霊話集、といった感じ。

前から気になっていた表題作をやっと読めた。

敵につかまった男が絞首刑となり、もう一巻の終わり、というところで縄が切れて下の川に落ち、なんとか兵士たちの銃弾も逃れて愛する妻の元へと逃げるのだけれども・・・というお話。

オチは知っていたけれども、読めてよかった、と思える傑作だ。

映像化されて「トワイライトゾーン」の一話として放映されたものもぜひ見てみたいところ。










未来いそっぷ 星新一 新潮文庫 20250215


「ボッコちゃん」と同じく、何度も何度も読んだ星新一のショートショート作品。

昔話のパロディというのはたくさんあるだろうけど「それもそうだな」とアリの理屈に妙に納得してしまう「アリとギリギリス」、カメのイメージが思いっきり逆転してしまう「ウサギとカメ」なんかが特に楽しい。

そして「シンデレラ王妃の幸福な人生」にいたっては「めでたしめでたし」のその後のシンデレラに降りかかる出来事の数々とそれを見事に解決してみせる彼女の姿を圧倒的な説得力で描いてみせる。

また、クリスマスイブに起きたほっこりとさせられるお話「ある夜の物語」なんていうのもあります。これがまたいい。

そうかと思えば、小説界における大問題作と言われてないかもだけど、そういっても過言ではない「不在の日」というちょっと長めの作品もあります。初めて読んだ時の衝撃は忘れられません。まさか、小説であんなことが起きるなんて!!










ひとりずもう さくらももこ 集英社文庫 20250205


「ちびまる子ちゃん」の作者による「青春」にまつわるエッセイ。

「ちびまる子ちゃん」を読んだのは大学生のとき。友達から勧められて読んだら爆笑の連続。

今でも覚えているのは学校が水浸しになるお話。うっかり電車で読んじゃったものだから笑いをこらえるのに一苦労しましたっけ。

その作者によるエッセイ。初恋だったり東京へのあこがれだったりおかしいエピソードのてんこ盛り。

そんななかにも、漫画家という夢はあるけども果たして叶うのだろうか?違う道へ方向転換した方がいいのか?などと揺れたあげく、自分にふさわしい道へと修正して突っ走った先に待っていた結末はかなりグッときました。わかっちゃいたけど「よかったーっ!!」と思えるラストでした。










店長がバカすぎて  早見和真 角川春樹事務所 20250131

吉祥寺の中規模書店に勤める契約社員で文芸書担当の谷原京子。わけのわからない店長、理不尽なお客さん、売れ筋を送ってくれない取次ぎなどなどにイライラしながらも一冊でも多くの本を読者に届けるべく日々、奮闘する。

主人公の「イライラ」に共感しつつあっという間に読んじゃった。

書店にまつわるお話として文句なしでした。

が、

もはや書店の無い町が増えちゃってるのに給料安いまんまっていうのが狂ってる。

このまんまじゃ絶対にいけないのになんにもしない国ってなんなの?

読んでいてそういうことばかりが頭ん中にずっとあった。

大手書店でもない限り取次ぎは売れ筋を送ってくれないから書店員としては「客注」と嘘ついてまで店頭分を発注してしまうというのはどこも一緒なんなだなあ、と今更ながら納得。今となってはどうでもいいような、懐かしいような。










みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議
みうらじゅん 宮藤官九郎  集英社文庫 20250123

男女間に友情はありえるのか?なぜ男はおっぱいが好きなのか?お化けはいるのか?などなど人類の重大な課題についての熱い会議録。

疲れたときにこういう本は絶対に必要かと思います。考えすぎるとろくなことはないから。

あと、全編笑いっぱなしなのだけど二箇所ほどグッときたところがありました。

ひとつ目は「なぜ戦争は無くならないのか?」の中でのみうらさんの


そもそもこの世の中に正義なんてもの自体、存在するのかな?


という発言。

もうひとつは「天職とは何か?」の中で


人生ってやっぱり失敗がないと面白くないでしょ。


というもの。

なんか、心地よく突き刺さったような感じ。










地獄行きでもかまわない 大石圭 光文社文庫 20241228

合コンで知り合った美貌の白井夕紀が忘れられない冴えない男、南里遼太郎。

数年後、友人の結婚式に彼女が呼ばれていると知り、遼太郎も出席する。


二次会での憧れの夕紀との会話の中で、遼太郎はあるひとつの嘘をついてしまう。

その嘘によって夕紀の関心を惹き交際をスタートさせることに成功した遼太郎だったが・・・。


いやあ、やっぱり嘘はよくないよね、というどころではなくて最後の最後まで最初の嘘のせいでとんでもない展開がどんどこどんどこ進んでしまいます。

一体この人どうすんだろ?と気になって気になってあっという間に読み終えてしまいました。

裏表紙のあらすじ紹介文に「戦慄のクライムサスペンス!」とあるけれど、それにしては主人公としてはあまりに気の小さい遼太郎。

そんな彼が嘘に嘘を重ねまくって多くの人を巻き込んだあまりにも大きな事件を起こしてしまう。小心者でもこんなことを起こしてしまうのかと思うと恐ろしい。

小説でよかった、としみじみ。










その扉をたたく音 瀬尾まいこ 集英社文庫 20241217

29歳の宮路。無職だけど、資産家の親からの仕送りで生活はなんとかなっている。ただし、音楽の道へ進みたいという漠然とした思いを持つだけで具体的な展望はまるで無いまま。

ある日訪れた老人ホーム「そよかぜ荘」で耳にした介護士の吹くサックスの音に衝撃を受け、半ば強引にその介護士、渡部と組んで音楽の道を突っ走ろうとするが・・。

この主人公、宮路。仕事もせずに親からの仕送りで暮らしてるというからどうしようもないなあ、という男だと思いきや、施設の利用者さんたちに溶け込んでるのでひと安心。しかも無理に老人たちに合わせてるのではなく、本音でやり合ってるところなんか微笑ましくもあるし。

とくに口うるさい婆さん的な水木さんとのやりとりは漫才でも見てるよう。

宮路は全然「ぼんくら」なんかじゃないし、ここから大きく羽ばたくはず!










雪と心臓 生馬直樹 集英社文庫 20241127

クリスマスの夜に起きた住宅の火事。燃える家の2階には逃げ遅れた10歳の少女が。

外へ飛び出してから娘がまだ中にいることを知った母親もどうすることもできない。

そこへ偶然居合わせた20代後半の男性が、何を思ったか燃え続ける家へ飛び込みあっという間に少女を助け出した。

母親、集まった人たちがほっとしたその直後、男は自分の車の助手席に少女を乗せ夜の道を走り去った•••。


なんでなんで?と思っちゃう導入部。

と思ったら全く別の、ある家庭の勝気な姉、帆名(はんな)と、彼女に振り回されっぱなしの弟、勇帆(ゆうほ)の小学生から高校までのざまざまなエピソードが語られる。

それがまた姉弟の微笑ましい出来事、といった生やさしいものではなくて過激なことばかり。こんな人が身近にいたら面白いだろうけれど家族にいたらしんどいかな、という姉のおかげで。

でもこの帆名、かなりの正義感の持ち主。というかとことんまっすぐな人。だからこの主人公、勇帆は憎みながらもどこかしら憧れもあるから余計最後、グッときます。

人によっては「?」となる事の真相、自分は納得できたし、さらに最後の最後にも驚きが。










漂流教室  楳図かずお 小学館 20241120

高松翔が通う大和小学校がある日、原因不明の巨大な衝撃とともに消失してしまう。

しかし学校にいた先生、生徒たちは生きていた。彼らは学校ごと、どことも知れぬ「砂漠」に送られていたのだ。

生徒たちを守るはずの教師たち「大人」は突然の変化に対応することができず、自ら命を絶ってしまったり、狂って生徒を殺めようとしたりでまるで役に立たない。

生徒たちは自分たちで生きのびる道を探さなくてはならないが、洪水、不気味な生物、伝染病などなどありとあらゆる障害が彼らに追い打ちをかける。

ときには生徒どうしが対立し、憎しみ合いながらもどうにかして生きのび、元の世界に戻ろうと奮闘するのだが。



最初にこの作品を読んだのはある駅ビルの上にあった書店での立ち読みでした。

当時は楳図かずお作品は「まことちゃん」と「おろち」しか知らなくて「漂流教室っていう凄いのもあるよ」と誰がから聞き、どれどれ、と手にしてみたのでした。(店頭で読めたということはコミックにシュリンク袋をかける習慣以前か、又は古本屋さんだったか・・・)

『ページをめくる手を止められない』とはこのことか、というくらいの体験。そして一巻(単行本版)最終ページのあの衝撃!!!

せっかく大切な食料である給食のパンを手に入れたと思ったのに!

もう全編クライマックスの連続。ただでさえ障害がこれでもかと繰り出してくるのに仲間であるはずの友人と敵対しちゃったりしてもう大変。

すぐに全巻購入しました。

でもこのお話、サバイバルというだけではなく壮大なSF超大作(私の大好きなジャンルの)にもなっているから読後の最大級の親子愛の感動とともに「ということは、あの後どうなるんだろう?」といろいろ考えさせてくれる作品でもあります。

そうそう、当時の社会に対して「このままじゃいかん!」というメッセージもあちらこちらに込められていて、それはそのまま現在にもそのまんま当てはまるものなので、できるだけ多くの人、できれば国を動かすエラい人間たちに読んで欲しい作品です。










だいじな本のみつけ方   大崎梢 光文社文庫 20241115

本が大好きな中学生、野々香がある日の放課後、一冊の本を目にするが、それはまだ発売されていない本だった・・・。

本にまつわるミステリー。昔読んだこの作家さんのお話は出版社の営業さんや、書店員さんなんかが主役だったけれども、今回は女子中学生、野々香が主人公。

彼女が、同級生たちと謎を解くだけでなく、離れてしまった人と人の間を繋ぐきっかけとなったり、「本」の良さを知ってもらうイベントにチャレンジしたりと大活躍。シリーズ化して欲しいくらいでした。してるかな?







まぼろしのペンフレンド   眉村卓 講談社 青い鳥文庫 20241110

ごく普通の中学生である明彦に、本郷令子という大阪の女の子から手紙が届く。そこには、明彦の学校、家庭、友人のことをくわしく教えてほしい、とあった・・・。

昔からタイトルは知っていたものの「いつか読もう」と思いながら長い年月が過ぎ去ってしまっていた作品。

文庫で探して読もうと思ってたけど、見つけたのは「青い鳥文庫」でした。ときどき出てくるイラストページが新鮮。

「時をかける少女」と同時期に出会っていたかった一冊。

といってもいま結局出会えたのでよかったよかった。

ごく普通の中学生のまわりで起きる不思議な出来事が、まさかまさかの侵略の前触れで、それを主人公とその家族、友人、学校の先生らの協力を得て食い止めようとするお話。

終盤の、侵略者の手先であるはずの本郷令子との何とも言えない切ないやりとりがグッときました。

たぶん同じ作者だと思うのだけれど、同級生の女の子が円盤にさらわれて、いろいろあって最後に解放されて無事に戻ってきた彼女は、どことなく雰囲気が違っていた・・・。

みたいな話を小学生のころに読んだ記憶があるのだれどタイトルかわからないんです!もう一回読みたい。







図書館の子   佐々木譲 講談社文庫 20241101

タイトルと表紙からすると「本」にまつわる心温まるお話かな、と思ったのだけどこれが大間違い。といっても嬉しい間違いでした。なんとこの本、私の大好きなあるジャンルをテーマにした短編集でした。

できることなら予備知識無しで読んで頂きたい作品。


ある晩、隅田川に浮いているところを発見された男。身元を証明するものも、記憶も無い。いったいどこから来たのか・・・。(遭難者)

少年時代、あちこち見知らぬ地域を「冒険」してまわる二人。あるとき、もう使われていない防空壕に入ってみたところ・・・。(地下廃駅)




人生ベストテン   角田光代 講談社文庫 20241024

人生の切り替え(もしくはリセット?)の時期にさしかかった人たちのさまざまな選択を描いた短編集。

「選択」というほどのものではないか。それぞれに起こった出来事に確固たる決意の無いまま流されてゆく、というか。


40歳を目前にして、かつて憧れた男性の出席を知り、同窓会にいそいそと向かう女性。

15年の交際期間と3年の結婚生活を送った夫との関係を終わらせる女性が、夫以外の男性とほとんどまともな会話すらしたことが無いことに気づき、料金を払って一日デートを体験してみる。
などなど・・・。


どのお話も劇的なことが起きるわけでも、カッチリとした結末が待っているわけでもない。でもどのお話の主人公たちにも「がんばれ」と言いたくなる。





春、戻る   瀬尾まいこ 集英社文庫 20241014

結婚を間近に控えたある日、さくらの前に「兄」を名乗る男性が現れた。さくらには「兄」などいるはずもなく、しかも彼は年下だった・・・。

先日同じ作家さんの、突然息子が現れる、という「傑作はまだ」というお話を読んだけれども今回はまさかの「年下の兄」が現れるので、ちょっと不思議要素もあり。

今の常識内での納得のいく真相が明らかになるのか、それともSFっぽい方向へ向かうのか、どっちかなあ、などと考えながら読めました。

主人公のさくら、結婚相手の山田さん、山田さんのご両親、さくらの妹のすみれさん、そして「おにいさん」。

みんながみんなほのぼのした雰囲気でお話は進み、それを乱す者もいないまま真相が明かされる結末へ向かう。

人の気持ちは、ここに出てくる人たちくらいに柔らかくていいんだな、そうありたいものだな、と思いました。





傑作はまだ 瀬尾まいこ 文春文庫 20241001

大学を出てからずっと作家として、人付き合いのほとんど無い生活を送っていた「俺」(50歳)の前に突然現れた、一度も会ったことの無い息子(25歳)。

驚きつつも息子と過ごすうちに、今までに経験したことの無い様々なことに気づかされて行く・・・。

といってもこの主人公、それまでほぼ引きこもり状態だったので(作家なのでそれで生活が成り立ってしまっていた)、コーヒーの淹れ方や近所づきあいだったりを教えてくれたり、生き様ってほどではないけれど、人が生きてゆく上での心構えというか、「物事、こう考えた方がいいんじゃない?」みたいなアドバイスをしてくれる、とても頼もしい存在なのが面白い。

そんな息子のおかげで「俺」もよい方向へと変化してゆきやがては、派手ではないけれど「ああ、よかった!」と心から思える展開へと向かう。オススメです!!





虹の音色が聞こえたら 関口尚 集英社文庫 20240927

小学五年の眠人(みんと)は、まともに働かずパチンコと酒に溺れる父親との二人暮らし。

将来に夢も希望も持つことなどできそうもない。

ある日眠人は、家にいるのが嫌でいつも過ごすことの多い近所の都立公園の東屋で一人の女子高生と出会う。そこで眠人は、彼女が奏でる三線のゆるやかなメロディーと、そののびやかな高音の歌声に魅了される・・・。

眠人をはじめ、親友の竜征や級友のさくら子などこのお話に出てくる人みんなが、押しつぶされてもおかしくない境遇のなか、決してくじけることなく必死になって生き続けている。生き続けているからこそいくつもの「出会いの風」が吹く。

悪人というほどの悪い人や敵のような人物は出てこなくて(最初はどうしようもない奴、と思っていた人にもよい変化が見られるし)、出だしの、眠人が厳しい状況の中生活を送っている小学生時代から出会った仲間を大切に大切に想い、やがてはみんなが立派な大人へと成長する、清々しいお話。


もしこのお話の中の人物に会えるとしたら。

さくら子さんもスミレさんも十分に魅力的すぎるヒロインなのはもちろんだけれども、ここはやっはり春帆さんにお会いしたい。彼女との出会いがあってこそのお話だから。





三匹のおっさん 有川浩 文春文庫 20240919

年は食ったけれど、まだまだ活力いっぱいのジジイ三人、子供のころからの仲間がご近所に起るいくつもの事件を次々と解決してゆく!


何回か見たことのあるドラマ版では、剣道の達人にしてリーダー格のキヨを北大路欣也さん、柔道家でぶっきらぼうではあるけれど正義に燃えるシゲを泉谷しげるさん、そして二人と比べ体力では劣るものの策略や機械いじりに関してはヤバいくらいにプロ級のノリを志賀廣太郎さん(残念ながら亡くられている・・・)が演じられていたけれど、原作を読んでいると彼らの声が脳内で見事に再現されるのが面白い!よほど原作に忠実に制作されたドラマだったのだなあ、と今更実感。

じーさんばかりではなくて、彼らの家族、特に生意気だけれど物事を冷静にそして的確に判断するキヨの孫の祐季、そんな彼と仲良くなってゆくノリの愛娘の早苗ちゃんたちも出てくるのだけれど、彼ら含めてみんなの会話が自然で、余分な描写が全く無いのでどんどんストーリーが進んでしまい、もっと解決に時間がかかるような難事件にぶち当たらないかなあ、とか思ってしまった。

読み終わった直後、もう一回ドラマを見たくなったし、もし見たらきっと、たぶん、間違いなくまたこの原作を読みたくなるはず。

それにしても、戦争したり人を傷つけたり殺したり国民の為でなく自分たちのことばっか考えてるエラい人たちの存在だけでなくても、身近なところにも悪い人がいっぱいいるんだなあと改めて思った次第。

よく商店街なんかでお年寄りを集めて健康セミナーみたいなのをやってるのを見るけど、この本読んだら「あー、そういうことか」と妙に納得。ひっかっかてしまうお年寄りもかわいそうだけれど、実に巧みだなあと思ったり。





あん ドリアン助川 ポプラ文庫 20240908

ある事情で小さなどら焼き屋さんの店長をまかされた千太郎。
しかし、彼にはどら焼き作りへの情熱があるわけでもなく、ただ必要に迫られて店長を務めているだけだった。

ある日、店で働きたいという、吉井徳江と名乗る高齢の女性との出会いをきっかけに千太郎の気持ちに変化が現れる・・・


いまさらですが、昔から気になっていたこのお話、ようやく読みました。

「お話」ではあるけれど、この中で語られるつらいつらい出来事は現実に起きたこと。二度と起きてはならぬこと。




エディプスの恋人 筒井康隆 新潮文庫 20240829

高校の教務課職員の火田七瀬は、校庭で野球部の練習中に空中のボールが理由も無く割れるという現象に出くわした。そのボールは、歩いていたある生徒に当たる寸前だった・・・。

「家族八景」「七瀬ふたたび」に続く七瀬シリーズ完結作!

それにしても、前作「七瀬ふたたび」で、せっかく普通の人間には無い能力を持つ同胞たちと出会えたのに、その大切な仲間ともどもあんなことになってしまったにもかかわらず、この作品の冒頭、何事も無かったかのように普通に高校の教務課職員として働いている・・・っていったいどういうことか、という大いなる疑問などお構いなしに話は進みます。



ボールは何故割れたのか?

ボールが当たるはずだった「彼」は何者かに守られているのか?

謎の失踪を遂げた彼の母親はどこにいるのか?



などなど「彼」にまつわる謎は深まるばかり。「それまでのことはどうなったの?」という疑問はいったん置いたままでも、読者も七瀬と一緒に謎を探る旅についていくことになります。

やがて明らかになる真実は、あまりにも壮大というか、そんなのありかっ!、というか、もうぶっ飛びすぎてるけど、こういう、こちらが全く予期しない方向に話が向かっていくときに味わう「ちょっと待って」という感覚こそが読書の醍醐味でしょう。

読み終わった後、「自分」て何だろう、「自分」の生きている「世界」とは本物なのか?今ここでこうして生きているということはどういうことなのか?とかいろいろ考えさせられるお話でした。

前二作はドラマ化されたけれど、これはちょっと難しそう。でもアニメ化ならできるかな。「パプリカ」ができたんだから、こちらもぜひアニメ化希望です。











JAZZ健康法入門 寺島靖国 音楽之友社 20240805

タイトルに「健康法」とはあるけれど、まさかね、と思っていたらかなりの割合を健康ネタが占めていたのにビックリ。

しかも思わず笑っちゃう箇所多数あり!

だいぶ前に中山康樹さんの「超ジャズ入門」という、ジャズに詳しくなくても文章があまりにも面白くて笑っちゃう本があったのだけれど、ジャズの文章書く人は楽しい方ばっかりなんだろうか。

「知人の鼻毛、あなたは指摘できますか?」のところが一番笑ったかな。








七瀬ふたたび 筒井康隆 新潮文庫 20240801

先日読んだ「家族八景」の続編。

人の心を読むことのできる七瀬が、お手伝いさんとして八つの家族を渡り歩き、それぞれに隠された秘め事を目の当たりにした後のお話。

 

前作では「超能力を持つ人にとっては世の中はそう見えるわけか」などと思う部分もあったが、今回はそんなのんきな雰囲気ではなくて、 のっけから土砂降りの嵐の夜、崖沿いを走る列車の場面、脱線しちゃうんじゃないかという危険な状況。

そしていくつものピンチにあいながらも七瀬と同じ、または別の種類の能力を持つ仲間を得るが、人間には無い能力を持つ彼女たちの存在を良しとしない者たちもいた・・・。

まったく、七瀬たちを攻撃するなんてヒドい奴らだと思っていたけれど今回読み直していたら違う思いが。

もし、近所に住む知人から「こちらが考えていることを何でも言い当てる人たちがこの街に現れたみたい、あなたも気をつけたほうがいいよ」などという話を聞いたとしたら。
ほどなくして隣人から「見知らぬ者の訪問を受けたが、思っていることを先回りして言われた、恐ろしかった」と言われたとしたら。

凄い、と思うと同時に彼らには近づきたくない、関わりたくないと考えるのではないか。

そしてその考えを皆で共有し、やがてはその者たちを「排除」するべしという結論に達するのではないか。

そしてその結論が「正義」であり、能力者たちが「悪」であることに誰も何の疑いを持たずに実行に移すのではないか・・・。

といったようなことを今回初めて考えた。すると、敵とか味方とか正しいとか正しくないとかいろいろいろいろ考えてしまった。

それにしても前作の「お手伝いさん七瀬」から今作は「戦う七瀬」に変貌したけれど、あの結末はなんともやりきれない、けれども美しい。




さいはての家  彩瀬まる  集英社文庫 20240727
 

ある借家に入居したさまざまな人たち、それぞれのお話。

この借家に入る人、その誰もが「わけあり」な人ばかり。年の大きく離れた妻子持ちの男性客と駆け落ちした飲み屋の雇われママだったり、まだ育児で大忙しな最中に、妻の同意を得ないまま出向に応じた夫だったり。

「家」そのものが魔力を持っていて、入居する人間がおかしくなるおっかないお話しかと思っていたら、そういうお話ではなかった。

あくまで、さまざな事情からいったん逃れてきた人たちが、この家で何を考え、どこへ向かおうとするのかを描く短編集。







ナイツ 午前九時の時事漫才  駒草出版 20240725
 

こんなに読みやすい本は無い。だって「読書」してるのではなくて、塙さん、土屋さんのお二人が目の前で漫才をしてくれてるかのようだから。
しかも一つのネタが4ページ無いくらいだし。

読む前は、漫才って文章だとどう感じるのかな、と思っていたけれど、そんなことは気にならずにあっという間に読み終えちゃった。文章でも大笑いできたし。

この本は毎週放送されているラジオ番組のオープニングでやっている漫才を書籍化したものだそうなので、一つのネタはすぐに読み終えちゃうけれど、もっと長い漫才も文章で読んでみたい。でも電車の中とかだと笑いをこらえるのが大変かな。







家族八景  筒井康隆 新潮文庫 20240720
 

人の心を読み取ることのできるお手伝いさん、七瀬が目にする八つの家族のさまざまな人生模様。


実際に七瀬さんのような能力者がいたら、この作品中の七瀬さんのように考え、行動するのだろう、と妙に納得しながら読みました。

なぜなら相手の心がわかるからといって、それを言い当ててしまえば、気味悪がられるに決まっているから。それどころか「普通の人間と違う」ことがおおっぴらにされれば、自由は奪われて実験材料にでもされてしまうから。

あと、このお話、かわいいお手伝いさんの七瀬が主人公なので、どの家族でもいやらしい男どもの好奇の目で見られる場面があるけれども、そこのところが残念ながら非常にリアルだなあ、と感じました。

それにしても、最終話「亡母渇仰」のラスト、熱くなります。




気分上々  森絵都 角川文庫 20240715
 

さまざまな状況のなかで、降りかかった困難をなんとか好転させようともがく人たちを描いた九つのお話。


初めてこの作家さんの作品を読みました。

ニヤリとさせられるところ、そうきたか!、とビックリするところなんかがあって、しかもどのお話にもその最後には清々しさを感じさせてくれ結末が用意されてる一冊。

いくつかしっとりとした雰囲気のお話もあるけれど、それらも柔らかい終わり方なので心地よいです。

あと、124,125ページは大笑いでした!




美しく枯れる  玉袋筋太郎 カドカワ 20240616
 

何もかもを知り尽くした玉ちゃん流、50代の生き方あれこれ。


たくさんの芸能人のいるなかで『この人は正直に話してる』なあと信じている方がたっぷり語りつくしてくれる最新作。
ほんと、そういうことまで言っちゃっていいの?ということもあったりして。

この本を読んでいると「読んでいる」というより、玉さんがすぐそばで直接語りかけてくれているようで、しかもその内容がどれもこれも「うんうん、そうそう」とうなづくことばかり。
「はじめに」にもあるように「50代を生きることはとても大変で、難しい」けれども、後半には、ゴールは意識しなくていい、バタバタ生きる必要はない、身の丈に合った生き方でいい、などなど、そうだよな、とホッとさせてくれて、ほどよくがんばればいいや、と思わせてくれる貴重な一冊です!!




危険な食卓  小池真理子 集英社文庫 20240527
 

夫が毎年誕生日にプレゼントしてくれるのは動物のぬいぐるみだった。今年はイグアナ。とくに動物好きでもないのに。
何もかもが夫のいいなりの妻だったが、ある日スーパーの帰りに立ち寄った公園で出会った小さな犬が彼女の運命を大きく変える・・・(囚われて)

「もしもし?湯川さんのお宅でしょうか」
ある夜かかってきた電話は、じつに二十一年ぶりの中学時代の同級生だった。しかし特別親しかったわけでもなく、あまりよくない出来事の思い出しかない女だった・・・(同窓の女)

と、二つほどこの短編集に収録されているお話を紹介しましたが、ほかのお話どれもこれも引き込まれちゃうし(お話によってはニヤリとさせられたり)、最後には「そうきたかっ!」と思わず唸ります。

とくに「路地裏の家」と「天使の棲む家」にはやられました。ぜひ予備知識無しでどうぞ。



十九、二十  原田宗典 新潮文庫 20240517
 

実家の親父が借金を作ったものだから仕送りも期待できず、彼女にはフラれ、持ち金も減り、あと少しで二十歳というのに何のいいことも無い学生の「ぼく」。応募したバイトに行ってみると、そこは小さなポルノ出版社だった。


踏んだり蹴ったりの学生さんが、さらに踏んだり蹴ったりな状態になってしまうお話でした。

確かこの作者さんのエッセイは「大笑いできる」と昔の同僚が言っていたのを思い出して購入したところ、これはエッセイではなくて小説だったのだけれども、読み始めたら「この学生さん、この先どうなっちゃうんだろう?」と気になってあっという間に読み終えました。

目的の「大笑い」は達成出来なかったものの、大いなる収穫。

青春小説というと「何かに打ち込んで挫折を乗り越えて最後には大切なものを掴み取る」ストーリーだろうと思っていたのが、見事に違う方へと進み、予想をいい意味で裏切ってくれました。

ものごとキレイなことなどそんなに無いし、キッチリとした結末なんてのもあり得ない。はっきりしない、モヤモヤしたものがズルズル続くのが現実だし、自分に影響を与えてくれた人、ちょっと気になった人なんかも気がつくと視界から消えている。

読み終えたあと、そういえばあの人、今ごろどうしてるのかな、などと遠い昔のひとを思い出す。




本心    平野啓一郎  文春文庫  240511
 

事故で最愛の母を失った朔也は、生前に「自由死」を望んでいた彼女の本当の心を知るべく、VF(ヴァーチャル・フィギュア)として蘇らせて対話を重ねてゆくのだが・・・。


うーん、もう本物の母親は存在しないのだからAIで再現してみたところで「姿かたち、受け答え」が同じだけの「別物」に過ぎないから作ったって意味無いのでは?と思ってしまいそうだけど「姿かたち、受け答え」が同じ人物を再現できる技術があるならば作りたくなるのももちろんわかる。

近未来を舞台にしたお話だけれども、およそ楽しそうな未来なんかではない。

なぜなら朔也はもちろんのこと、亡くなった母親、朔也の同僚の岸谷、そして母親が職場で親しくしていたという三好。みんながみんな生活が大変そうだから。

そんな、このままいくとやっぱりこうなっちゃうのかな、と思わせる社会を舞台としながらも読んだ直後にはほんわかとした気持ちにさせてくれたのは嬉しい。




キャリー    スティーヴン・キング  新潮文庫  240229
 

狂信的な母親の歪んだ教えを受け、高校ではいじめられっぱなしのキャリー。だが彼女は常人には無い「力」を秘めていた・・・。


キャリーは普通の女の子だったのに。

母親を愛して、母親から愛されたいと思っていた女の子だったのに。

学校一の人気者から高校の一大行事である「春の舞踏会」の相手を申し込まれたらもちろん喜ぶに決まっている普通の女の子だったのに。

それなのに、あんなことになるなんて・・・としか言いようの無いお話でした。

しかもその「あんなこと」が尋常ではない!「ちょっと待ってちょっと待って」と言いたくなるような大惨事が待っています。


「能力」を持っているが故に苦しむ、ということで思い出すのはやはり火田七瀬さんか。他人の思考がわかってしまう辛さ。子供の頃なら「わー、便利!」なんて思うだろうけどいちいち周りの人間の感情が自分に入り込んできたら疲れてしょうがないはず。確か藤子F先生の短編にもそういう話があったっけ。




本屋の新井  新井見枝香  講談社文庫  240212
 

今更ながらこの方の本を初めて読みました。やっぱり書店員って独特な職業だなあ、と思いました。

本屋さんならではのあれこれがいっぱい語られているのだけれどその中でひっかかったことがひとつ。

毎日たくさんある作業のうち「明日発売の雑誌には、目にも留まらぬ速さで付録を挟み込み、紐をかける・・・」というところ。

えーっ!大手書店は発売前日に雑誌が入荷するのかっ?!羨ましい・・・。それだったら前の日のうちの付録つけはもちろん、当日の朝に「お客様の予約雑誌なのに1冊のみ入荷なのに破損入荷だ!」とかでドタバタしなくて済んだのに・・・。




星を継ぐもの  ジェイムズ・P・ホーガン  創元推理文庫  240207
 

月で発見された宇宙服を着た死体。その死体はどこの基地の所属の人間でも、地球のどの国の人間でもないだけでなく、なんと5万年前にすでに死亡していた・・・。

この歴史上類を見ない大問題の解決に向けて召集されたヴィクター・ハント博士をはじめとする大勢の学者たちが、その後もあとからあとから現れる難問に対して説明のつく答えを求めてひたすら考察するお話。

あそうそう、この作品は古典的ハードSFでありながら、立派なミステリでもあります。ある大きな謎が解明されたところで「ああ、そうか、そうだよな!!」と手をたたきたくなる場面ありです。




富豪刑事  筒井康隆  新潮文庫  240206
 

その昔、深田恭子さん主演でドラマ化、その後にアニメ化もされたミステリー。

こんなに面白い刑事さんいないよ、と思いつつ毎回楽しく見たドラマ版だったけれど、この原作だと主人公は男性。

読む前は、裏表紙の紹介文に「キャデラックを乗り廻し、最高のハバナの葉巻をくゆらせた富豪刑事こと神戸大助が・・・」とあるので、ひょっとして彼の高飛車な態度で話が進んでいくのか、と勝手に想像してしまったけれどそんなことはなく、常識と正義をしっかり持った人物だったので安心。ただし金銭感覚があまりに一般人と違うからこそ飛び出す発想がおかしかった。

できればその後の大助の活躍も読んでみたい。鈴江さんとはどうなるのかも気になるところ。



思い出トランプ  向田邦子  新潮文庫  240206
 

この方の小説を初めて読みました。短編集で、どのお話も20頁無いくらいのものではありましたが、そのどれもが濃い、というか読みごたえずっしり。かといって、じっくり細かく書き尽くしているわけではなく、さらっと読み終わってしまう長さ。なのに深い。これが「小説」なのだ。

何気ない日常のドラマが描かれているものだと勝手に想像していたら、これまたとんでもない間違いで、かなりすごいことになっているお話、多いです。「かわうそ」、「犬小屋」、「大根の月」とか特に。






もう一つの世界(SFジュブナイル)  豊田有恒  角川文庫  231226
 

実(みのる)が仲の良い同級生二人と夜の校庭でUFOを目撃したあと、帰宅すると母親から「あなた、どこの子?実なんて子はうちにはいません」(もう一つの地球)

100年後に蘇生された女子高生が見た、現在とはまるで違う社会とは・・・。(二一世紀高校生)

震度3ほどの地震が起きた後に現れた見知らぬ先生、しかも他の生徒たちはその先生を知っていて自分だけが知らない。
おまけに家にも見知らぬ女がいてごく普通に「おかえりなさい」と言う。聞くと、いるはずのない「姉」だという・・・。(幻影の終わり)

といったような「違う世界に迷い込んだ少年たちのお話」が詰まった一冊。

ジュブナイルというと、やはり「時をかける少女」が思い浮かぶのだけれど小学校高学年、中学校のころだったか、よく図書室や図書館でこういう本を借りて読んでいたような気がします。

この本は、古本市で見つけて、ひょっとして昔読んでもう一度読みたい話があるかも、と思って購入。お目当ての話は無かったけれど、初めてSFに接したころのワクワク感をもう一度味わたので大満足。

ちなみにもう一度読みたいお話、タイトルも作者も覚えてなくて、宇宙人にさらわれた、仲の良い同級生の女の子を心配する男の子、というものだったはず。
ラスト、無事に女の子は解放されて戻ってきたので「よかった!」と思ったけれども彼女、どことなく雰囲気が変わっていて。大人びた、というか・・・というストーリーでした。ずーっと後になって「そういうことか!」と気づきました。ああ、もう一回読みたい・・・。



桐島、部活やめるってよ  朝井リョウ  角川文庫  231222
 


「あのバレー部キャプテン、桐島が退部・・」
その大ニュースが駆け巡ったある高校の、幾人かの生徒たちの内面を描き、後に完成度の高い映画にもなった作品。


それにしても高校生って、勉強以外でこんなにも頭を働かせているのか、という驚き。しかも勉強よりも難しい、答えの無い問題ばかり・・・。お疲れ様です。

映画版と同じく圧倒的に感情移入できたのが、映画部の前田君。
彼から見た高校生社会。「上か下か」。

あそこまで残酷ではないけれど、確かにあったなあ。校庭ではサッカーなんかを難なくこなして、教室では面白いことを言って笑いを取る人たち。自分や自分のまわりの人間とはほとんど接触の無い人たち・・・。
いつも一緒にいるかわいい女の子四人組、いたなあ。
みんな今は、どうしているのかな。

こんな映画をみた



声の網  星新一  角川文庫  231204
 


「まもなくそちらに強盗が入る」
あるマンションの一階にある店舗にかかってきた一本の電話からはじまる一年間の12のお話。
現代の人間にとっては単なるお話ではすまない恐ろしいお話。

1970年に書かれたにもかかわらず、今のネット社会が予言されている・・・なんていうことはすでにいくらでも言われてること。 この作品を読んで恐ろしく感じるのは、これだけAIというものがもてはやされている現在ならば、作中に何度もかかってくるのと同じ「声」の電話が現実にかかってきてもおかしくない、と思ってしまうからだ。




星新一の思想  浅羽通明  筑摩書房  231124
 


1000篇越えを成し遂げた作家、星新一。その数々の作品たちの「徹底的」な考察本。
前に「星新一 一〇〇一話をつくった人」という本はあったけれど、あちらは星新一自身に焦点があたっていたのに対して、こちらは作品についてもあれこれ論じている。ここまで詳細に論じまくった本は無いのではないか。

なのだけれど、ちょっと自分には難しかったかな。
それと、例えば本文中に「ボッコちゃん」「おーい ででこーい」といった作品が出てきたらすぐに思い出せるけれども「あるスパイの物語」といった、どんな話だったっけ?というものが出てきたらその都度、以前購入した全集(年代別の3巻セット!)から探し出して読み直してからまた本書に戻る、なんてことの繰り返しなので読み終わるまでにかなりかかってしまった。ファンのつもりでいたけれども、読んでいなかったり忘れてしまってる作品のあまりの多さに愕然・・・。




妻に捧げた1778話  眉村 卓  新潮社  231024
 
病に侵され、余命宣告された妻のために実行した「一日一話、話を書く」、ということの記録。

いくらプロでも一日ひとつお話を作る、なんてとんでもないことだ。読んでもらう相手のことを考えての、いくつかの制約も作ってだから。
一日なんてあっという間に過ぎてしまうのに、その間にお話を作るなんて、ものすごいことだと思う。
ショートショートというと、どうしてもストン、と落ちるちょっとブラックな結末が待っているストーリーを想像してしまう。
でも、ここに収められたお話の数々にはそれは無く、「穏やかなちょっと不思議なお話」の数々。

あ、「書斎」はかなり不思議で面白い!




2001 キューブリック クラーク     
マイケル・ベンソン  早川書房  231017
 
映画「2001年宇宙の旅」はいかにして作られたのか。監督のスタンリー・キューブリック、原作者のアーサー・C・クラークはもちろんのこと、この作品に関わった大勢の人たちの詳細極まりない一大記録。

この映画、小学校3年のときに初めて観て以来のベスト映画のひとつで、確か昔は雑誌とかに「監督のキューブリックは『完全主義者』」みたいなことばかり書かれていたような気がする。
なので、本書にあるエピソードの数々、映画を作り始めたはいいけど結末が定まっていなかった、とか、ボーマンとプールの「計画」がHALにバレる場面を考え出したのはプール役の俳優だった、などなど現場はけっこう行き当たりばったりで進んでいたんだなあ、というのが読んでいてまず思ったこと。
でも、想像していた映画作りと多少違った、というだけで、悪いイメージは全く無い。むしろキューブリックは、完璧なシーンを撮るためにはありとあらゆる手段を取り、どこまでもとことん手間ひまかける人だったのだ。

ただひとつ、ボーマンが接触するはずだった地球外生命体を画面上でどのような姿として描くか、という難問について、第一人者であるカール・セーガン博士と話し合いをした、というエピソードの内容にはちょっとビックリ。
ずっと前にセーガンの著書「宇宙との連帯」(だったかな?)でこのことは知っていたけれど、同じ出来事でも立場が違うとこれほどまでに捉え方が違うんだということを実感。



シュワルツェネッガー主義  てらさわホーク  洋泉社  230929
 
出演作品のみならず、少年期から私生活からやらかしエピソードまで、アーノルド・シュワルツェネッガーの何から何までも詰め込んだ貴重な一冊!

シュワルツェネッガーについて、これほどまでに今まで全く知らなかったエピソードが、これほどまでに面白く記されている本はこれまでもこれからも存在しないんじゃないかという書籍。
特に「最初の企画とどんどん内容が変わってしまった」とか「結局作られなかった」作品たちの話が興味深かった。
しかも、著者さんならではの思いが溢れていて、映画によっては手厳しいこともしっかり書かれているところが正直でいいなあと思う。
だって「これはちょっと」っていう映画を無理やり「傑作だ!」と言われるより「ここがよくない」って理由まで言ってくれる方が信用できるから。

でも一個だけ。「ラストスタンド」についてもっと読みたかった!あれはいい!!



緋色の研究 コナン・ドイル  新潮文庫  230920
 
おそらく地球上でいちばん有名な探偵、シャーロック・ホームズのデビュー作。
出だしの部分でシリーズの語り手であるワトスンとホームズの出会いが描かれた後、早速最初の事件が舞い込む。
空き家と思われていた家で発見された身なりのいい紳士の死体。しかも金品も盗られておらず、死亡原因も不明・・・。

NHKの「100分de名著」でこの作品が取り上げられていたので、たくさんある作品の中からまだ読んでいないこちらを読んでみた。
前に読んだ「シャーロック・ホームズの冒険」(「赤毛連盟」収録)が最初とばかり思っていたけれど、こちらが第一作目だった。
スイスイ読み進められて夢中になってしまうのだけれど、驚いたのが、まだ半分くらいのところで決定的なことが起こり、そこからガラリと舞台が変わり「第二部」に突入してしまうところ。
でも新たに始まるそのストーリーにもいつしか引き込まれ、しまいには「手に汗握る」状態になり、あっという間に見事な結末へ。

ホームズをまだ読んでいない頃は『細かーい手掛かりの数々をもとに推理を重ねて犯人を見つける話』くらいにしか思っていなかったのだけれど、この作品には犯人が残忍な犯行に及んだのにはそれ相応の理由があったのだ(しかもその理由というのがほんとに酷い)、ということがしっかり描かれているのでただ「犯人が捕まってよかったね」などという話では決してなかった。



ラストデイズ 忌野清志郎  太田光と巡るCOVERSの日々
 PARCO出版 230912










清志郎はなぜ「COVERS」を作ったのか

太田光がその答えを探すために出会うのは、清志郎の日野高校時代の同級生たち、泉谷しげる、「COVERS」制作時のレコード会社のスタッフ、そして仲井戸麗市。

これまた清志郎にまつわる貴重な話がたくさん詰まった一冊。
それだけではなく、太田光の、アルバム「COVERS」に対する『芸人』としての見方のわかる一冊でもあった。

『それまでずっと清志郎自身の言葉で独自の世界を創ってきたのに、なぜあまりにも直接的な表現であのアルバムを作ったのか?』という問いは確かに興味をそそる疑問ではあるけれども、それは単に「そこまでしないといけないと判断した」だけではないかと。または「たまにはいつもとは違うものも作ってみたくなっただけじゃないの?」とも思う。
だって何枚もアルバムを出しているアーティストって、どれも同じってことはあまり無いんじゃないかと思うから。
初期、中期、後期とそのときどきに特徴があったりして、その違いを感じるのも楽しみだし、たまに「原点回帰」みたいなこともあったりして。


フレドリック・ブラウン傑作集
フレドリック・ブラウン サンリオ 230811










星新一と並んでかなり昔から読んでいる作家の短編集。しかも訳は星新一!
一応この人はSF、推理作家と紹介されるけど、なんというかそういうことではないんじゃないかと思う。
それは、この人のお話にはおよそ世界中でこの人でないと思いつかないのではないかという結末が待ち受けているからなのではないかと。
よく言う「アッと驚く結末」を超えた「なんなんだこれは?!」という気持ちにさせてくれる話の中にあって、あまりにせつない、思わずグっとくるけど微笑ましいラストが待っている「星ねずみ」(表紙!)もまたよいのです。


BLUE GIANT SUPREME ①~⑪
石塚真一 小学館 230510










日本を飛び出した大が向かうのはドイツ。
東京編のクライマックスで、名門ジャズクラブ「So Blue」のステージで最大限の力を出し切った大であったが、今シリーズでは言葉も通じない新天地から「世界一のジャズプレーヤー」への道を突き進む!

さすがにたった一人で外国で一から始めるのは大変だろうと思っていたら案の定、練習場所は見つからない、どの店も大にプレーをさせてくれないしで、あーあ、どうすんだろ?というところで救世主が現れます!
宿から初ライブの手配まで世話してくれるクリス。そんなクリスに大が、なぜそこまでしてくれるのか、と聞いたときのクリスの言葉がグっときます!(①の半ばくらい)
クリスが集めてくれた初ライブのお客さんは10人。そしてその10人を大はプレーで魅了させることに成功。いよいよ次のステップ、仲間探しへと進みます。
そこから実に個性豊かなのに加えて、技術も持ち合わせた仲間にめぐり合い、欧州最大のフェスという頂点を目指します。さらっと言っちゃったけれども、一人一人のメンバーが加わっていく過程が一筋縄ではいかず、読み応え、大いにありです。

4人編成となるこのシリーズ、クライマックスの巨大フェスに向けてさらにさらに盛り上がります。新たな3人のメンバーはもちろん、何かと手助けしてくれる楽器屋の主人、マネージャーを引き受けてくれる頼もしい男、その他たくさんの登場人物一人一人がこれまた味のある人たちばっかり!





あのころ、清志郎と  ボスと私の40年
片岡たまき 筑摩書房 230417










まだ中学生の頃にテレビから流れてきた独特の歌声に惹かれた女の子がその声の持ち主、忌野清志郎そしてRCサクセション(初期の)に夢中になり、コンサートへ行き、レコード、本を入手するにとどまらず清志郎の住んでいた国立にまで足を延ばし、挙句の果てにはバンドの事務所に入社する!

というところがまだたったの60ページ目あたり。そっからいろーんなこと、しかも清志郎の間近にいたこの方じゃないとわかりっこない、貴重で興味深くて愉快なことがたっぷり詰まった一冊。

ぜひ新潮文庫「忌野旅日記」とあわせてどうぞ。


BLUE GIANT ①~⑩
石塚真一 小学館 230316










仙台のバスケ部の高校生、宮本大がふとしたことからジャズに目覚め、「世界一のジャズプレイヤーになる」ことを目標にサックスの練習に明け暮れる。大は地元の由井にジャズを一から教わり、やがて東京を目指す。
東京で仲間を得た大は日本の名門ジャズクラブ「So-Blue」で自分たちのジャズを演奏することを目標にひたすら吹き続ける。

先日この作品の映画版を観てきたので、もう一回読み直してみました。そうしたら「漫画にある全てのエピソードを劇場で観たかったなあ」と思ってしまった。
時間的に無理だろうけれど。ぜひとも東京に出てくる前の、家族の話や三輪さんとのことなんかをテレビアニメ化して欲しいところ。

この漫画、主人公宮本大の潔さ、サッパリ感、そしてなにより一生懸命さが気持ちいいんです。
自分の最大限の力で吹いたサックスをこっぴどく評されたときはさすがにしんみりするのかと思いきや、たった一言「へでもねえや」。ここはグっときた。
でも「グっとくる」場面がほかにもたくさんあるもんだから、これはとんでもない作品です。

一応主人公は宮本大だけれど、この①~⑩は途中からバンドとしてSo-Blueを目指す、ピアノの沢辺雪祈とドラムの玉田俊二の3人の物語。
沢辺は最初から「天才」として登場し、大とガチャガチャしながらも互いを高め合う同志となってゆき、それに対して玉田はド素人からのスタートなので読んでるこちらも「大丈夫かな?」と思ってしまうが、ところがどっこい、話が進むにつれて大成長、いや、大変身を遂げるのです。
玉田さん、よく頑張りました!と声を掛けたくなるくらい。
ほかにもいろーんな要素が積み込まれ過ぎの大傑作漫画です。


侠飯
福澤徹三 文春文庫 230312










これといった取り柄もない大学生、若水良太。早く就職を決めないといけない焦りの日々を送っていたある夜、突然家のそばで起きた銃撃戦に巻き込まれてしまったうえ、物騒な男に有無を言わさず部屋に居座られてしまうのだが・・・。

だいぶ前にドラマ化されたものの原作。ドラマはかなり面白くて、続きを作ってくれないものかと思ったほどの作品。
急に居座られるだけでもとんでもない出来事なのに、それがいかにも怪しい男であたふたしていたらなんとその男、料理がうまい!という意表突きまくりの展開。
料理、といっても「ちょっと一工夫」みたいなものばかりなのでお得な感じ。刻んだネギを小鉢で醬油、一味唐辛子と混ぜてご飯にのっけるだけ、とか。
そして、このいかにも怪しい栁刃という男、料理のうんちくだけでなく、ところどころで就活に焦る主人公に対して人生訓というほどではないけれど、生きるうえで大切なことを教えてくれるところもグっときます。


忌野旅日記
忌野清志郎 新潮文庫 230224










かつて存在した雑誌「週刊FM」に連載されていた忌野清志郎の交遊録に新たに5編を追加して文庫化したもの。
それにしても、三浦友和の食欲の話にはじまり、泉谷しげるにジェームズ・ブラウン、アン・ルイス、サンプラザ中野、桑田佳祐その他大勢のおかしなエピソードが次から次へと出てくる出てくる。

他にもロンドンにドイツ、メンフィスなど海外での面白話まであったりして。

なかでも極めつきは細野晴臣さんとの、あの名盤「日本の人」制作時のやりとりの部分が何回読んでも笑っちゃうので、どうにもこうにも物事うまくいかないようなときには、いったんすべてを横において、このあたりを読んでみることをお勧めします。


幻夏
太田愛 角川文庫 230205










朝の小学校、正門までやってきた水沢尚は忘れ物をしたことに気づき、弟の拓、新しく友人になった相馬亮介に、先に行くよう伝えると走って家に引き返した。
そしてそのまま近くの川での夕方の目撃情報だけを残して姿を消してしまった・・・

23年後、興信所所長の鑓水七雄は「子供がいなくなった」という電話を受ける。それは、水沢尚を見つけて欲しい、という尚の母親である香苗の依頼だった・・・。


失踪した少年を探す話なのか、と思ったらとんでもなかった。なぜなら少年が姿を消したのは23年前なのだから。
しかもその家族には以前にとてつもない悲しい出来事が起きていたのだ。その「出来事」さえ無ければ水沢香苗と二人の息子、尚と拓の運命は全く別なものになったはずなのに・・・。
前に読んだ「天上の葦」と同じ鑓水、相馬、修司の活躍するお話。そして「天上の葦」がただの創作ではなくて今、世の中で起きていることを反映させていたのと同じように、今作の水沢家に降りかかったあんまりな「出来事」も実際に起きていることだった。
ということは水沢家のように取り返しのつかない被害を受けている人たちが現実にこの世の中にいる、ということだ。
主人公たちが真相にたどり着く過程は相変わらずスリリングなのだけど、やっぱりこの社会ってぜんぜん秩序がなってないというか、信用できないというか、安心できないというか、そんなことばかり、尚と拓のことを思うと考えてしまう。
これって「小説」でありながら、「この社会ってこのままでいいのか、ちゃんと考えようよ」と訴えているものなのだ、とも思う。


「本屋の堀ちゃん」
「カバーいらないですよね」
佐久間薫 双葉社 221205










書店員として働く堀ちゃんが出会う、実にいろいろなタイプのお客さんたち、たくさんの種類の本、書店ならではの面白い出来事の数々。
このマンガ、ほんとのほんとに実際の書店で日々起こるエピソードがてんこ盛り。これから書店で働こうかな、と思っている人にはうってつけの一冊!
一緒に働くお仲間たちそれぞれ独特のキャラがよいし、このほのぼのさが爆発してる絵がたまらない。


家族写真 荻原浩 講談社文庫 221204










家族にまつわる短編集。思わず笑っちゃう話もあり、グっとくる話もありでした。
一番シビアだったのが「プラスチック・ファミリー」。
一人暮らしで仕事も無く、過去の淡い思い出だけに浸っている男が、酔っぱらったある晩、捨てられていたマネキンを家に持ち帰ってしまうのだが・・・、というお話。
変なことする人だな、と思っちゃうかもなのだけど、だんだんとエスカレートしてゆく彼をあたたかく見守るような気持ちさえ抱いてしまう。
そしてラスト、主人公がとる行動。あの終わり方はよかった!


天上の葦 太田愛 角川文庫 221106









渋谷のスクランブル交差点で、何も無い空を指さしながら倒れ、亡くなった老人。
この不可解な事件の裏には、日本の存亡に関わる巨大な陰謀があった。

興信所所長の元テレビマン鑓水と部下の修司、刑事の相馬が幾多の困難にもめげず、真相に迫ってゆくのだけれど、それはあまりにも大きすぎるものだった。

だってそれはこのお話の真相でありながら、この本の中に収まりきれないことであり、いまのこの社会でもうすでに起きていることなのであるから「ああ、すごく面白い話だったなあ」ではすまされない。
この作品を呼んだ直後から、このままではいけない、でもそう思ったところで一体どうすればよいのだろう、というようなことばかり考えてしまう。
すでに狂い始めているこの世の中の幾つもの出来事は、本の中ではなくて、現実に起きているのだから。


75歳、油揚がある 太田和彦 亜紀書房 220910

この方を知ったのは「太田和彦のふらり旅 新・居酒屋百選」という楽しい番組がきっかけ。
この人の口から出てくる言葉のすべて、お店の紹介、外観から内装、そしてお酒にお料理、さらにはスタッフの方たちについての感想が、他の番組でたまに感じてしまう「とりあえず誉めとけ」と対極にある。 正直に、無邪気にお店を楽しんでるんだなあ、と本当に思う。それが楽しいから毎週録画して見てる。
そして文章だとどんな感じだろうと思い、読んでみたらテレビと同じく、いろんなことを楽しみながら生活してる人なんだなあ、と。
あと、何でも知っている方だなあ、とも思うし。 だから逆に、お仕事の時は厳しい人なのか、それともテレビや文章と同じ調子なのだろうかどっちだろう、と想像してみたり。 何よりテレビで拝見していたから、読んでいると脳内で太田さんの声が再生されるのが嬉しいや。 それにしても星新一との接点があったとは!清志郎とのつながりは知っていたけど。なんというか、自分が大好きなアーティスト、異業種のアーティスト同士が繋がっているのを知るのはとても嬉しい。

殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 清水潔 新潮文庫 220828



比較的近い地域内で5人の女の子が消えた。「犯人」は逮捕されており、解決済みかと思われた事件に疑問を感じ、執念の調査を始めた筆者渾身の記録。

以前読んだ同じ著者さんの「桶川ストーカー殺人事件ー遺言ー」と同じく、読みごたえたっぷりで読み始めたら止まらない臨場感、必死の調査を応援しながら読み進め、壁にぶち当たれば自分も挫折を味わう、といった感覚は一緒だ。そして、こんなに夢中になって読み進めるのだけれど常に「これは現実に起きたことなんだぞ」ということに戦慄しながらの読書、という感覚も同じ。
ただ「面白かった」では済まされない一冊。

読み終わった時に思ったのは以下のこと。

けいさつはわるいことをしたひとをにがすのではなくて、つかまえてくれるのだとおもってました。

しんぶん、ニュースというのはじぶんたちでいっしょうけんめいちゃんとしらべたことをつたえてくれるものだとおもってました。





そういえばいつだったか、外で朦朧とした人がいて、心配なので警察を呼んだのだけれけど、待てど暮らせどなかなかなかなか来なくて、その人が「もう大丈夫」と言って帰ってしまったのだけど、念のため聞いておいた名前と住所をずーっと後になってきたおまわりさんに伝えようとしたら

「そういうことはいいんです」

と言われたっけ。




藝人春秋 水道橋博士 文春文庫 220805



日本芸能界における、ステキな秘密をたくさん、一度に知ってしまった喜びを味わえる一冊!
「えー、そんなことがあったんだー!」と声に出してしまいそうになることばっかりのエピソードが出てくる出てくる。

浅草キッドの水道橋博士を初めて意識したのは、確か学生の頃だったか、朝のテレビ番組で、その一週間に起きた出来事をおもしろおかしくテンポよく、相棒の玉ちゃんと二人で楽しそうに紹介しているのがありまして、こんな面白いコーナーはこれから欠かさず見なきゃ、と思っていたらほどなくしてそのコーナーがなくなっちゃってガッカリ、なんてことがありました。

あとは数年前、MXテレビの「バラ色ダンディ」の博士がMCの日は高橋ヨシキさんの解説の映画コーナーが充実していて、毎週が貴重な時間でした。できればいつの日か復活してほしい番組。




砂の女 安部公房 新潮文庫 220719



新種の昆虫発見を目的に砂丘を訪れた教師が、部落の罠にかかり、窪地にある古びた家の女との、絶えず流れてくる砂かきを続ける生活を余儀なくされる。彼は脱出を試みるのだが・・・。

こんな世界で毎日何をしているのだろう、と考えてしまうことのあるような人は、主人公にとっての溜水装置のような、何か本気で熱中できるようなものが見つかればよいのでは、と思いました。気狂いみたいな状況を見ないで済むのなら、それは幸せなことかもしれないから。



熱帯 森見登美彦   文春文庫 211115



読んだ者は、その誰もが読み終える前に紛失してしまうため、結末を知っている者がおらず、現在流通も無く、再販もされず、作家の所在も不明という、謎に包まれまくった本、「熱帯」。
「熱帯」にとりつかれた者たちの、驚異に満ち満ちた物語。

といってもこの小説、堅苦しい小説かと思いきや、出だしはスランプに陥ったグータラした小説家から始まるので、ブ厚い超大作なのだけれど、ひるむことなく読み始められます。
その、なかなか新作に取りかかれないでいる作家さんが「熱帯」を探し求める旅に出るのだな、と思って読み進んでいくと、ほどなくして「あれっ」という展開があって「なるほど、そうくるわかけか」と、その新たなストーリーに引き込まれたと思ったらまた別の展開が、そしてまた別の展開が・・・という具合に、気が付いたらすっかりのめりこんでしまっているという読書の快感を存分に味わえる一冊!!!



100分de名著「レイ・ブラッドベリ 華氏451度」本が燃やされる社会 戸田山和久   NHK出版 211023



毎月1冊の作品について、その道専門の先生に解説してもらうNHKの人気番組のテキスト版。

この番組で「華氏451度」が取り上げられると知り、見てみたらまさに「今」の社会を描いたのではないかということも含めて非常に興味深い内容だったので、このテキストも買ってみたら、さらに深く考察されていたので入手しておいてよかった!な1冊。

ちょっと意外だったのは、著者が結構言いたい放題だったこと。といっても「この人、何言ってんだか」というのではなくて、「そうそう」と同意することばかり。
公文書や記録の改ざんと、そのことにより人が亡くなっていることや、原発事故後の「アンダーコントロール発言」など。
あと、フランソワ・トリュフォー監督の映画版との比較で、原作に対してかなり厳しい見方をしていたこと。でも、確かに映画のラストシーンは素晴らしいから。美しいんですよ、あの終わり方。寒そうなんだけれども、あたたかい、というか。




機械仕掛けの愛①~⑦   業田良家   小学館  211011



ロボットが人間社会に浸透している世界。様々な立場のロボットたちの物語。

いきなり①巻第一話目から、けなげに人間のために働いているのにひどい目に合う女の子ロボットのお話だったりして、これは結構ツラいマンガかな、と思ったのだけど、そんなひどい目にあっても負けずにふんばる話でもあるので良かった。
「スタートレック」のアンドロイド、データ少佐も人間と共に働くロボットなのだけど、このマンガのロボットたちと同様、あれだけ高性能なら「もう十分感情あるよ、人間と同じだよ」と思ってしまう。

やっぱり思うのは、すごい能力のロボットを生み出したくせに、問題があるのは作り手である人間の方なんだ、ということか。
ただ、このマンガに出てくる人間、全部が悪人などではなくて、やさしい人間もたくさん出てくるのでご安心ください。

どのお話も意表を突いたシチュエーションだったり結末だったりして良かったのだけれども、その中でも印象に残っているのは①巻の「罪と罰の匣」、⑤巻の「実験人形ダディー」、⑥巻の「眼科医ルック先生」、⑦巻の「ロボットさん」といったところでしょうか。特に「ロボットさん」のラストシーンにはグっときます。このストーリーならもっと長くしても立派な作品になるのでは。




映像研には手を出すな!①   大童澄瞳   小学館  211004



2年くらい前のある晩、なんとなくテレビをつけたらちょうどその瞬間、このコミックのアニメ化第1話が始まった。

予備知識皆無で突然見たものがとんでもなく面白くてワクワクさせられるものだった、なんていうことは滅多に無い貴重な体験だった。
アニメ制作に燃える女子高生3人のお話、と言ってしまえばそれまでだけれど、この3人がそれぞれけっこうな個性があって、そここそが面白さなのかも。

もちろん、浅草氏の頭の中から湧き出してくるいろんなメカとか異界の風景とかそれらを具現化するプロセスとかも楽しいのだけれども、やっぱり3人のやりとりがよく描かれていなければ作品自体の魅力も爆発しなかったのでは、と思う。
 ちょっと違うけれど「スタートレック」のカーク、スポック、そしてマッコイも3人それぞれの個性が絶妙に絡んでくるからあれだけの長寿シリーズになったんだと思うわけで。
それにしても金森氏の目つき含め、あの風貌はいい。とてもいい。






桶川ストーカー殺人事件-遺言   清水潔   新潮文庫  2100917



1999年埼玉県桶川で白昼、何の落ち度もない、家族思いの女子大生が何者かに刺殺された。

誰に殺されたのか。
なぜそんなことになったのか。
どうして警察は動いてくれなかったのか。
この事件を、どこの報道機関よりも、警察よりも早く真相に迫ったジャーナリストによる全記録。

職場の方に強く勧められて読んでみました。
何も言えません。

これは実際に起きたことです。
読んで下さい。




華氏451度   レイ・ブラッドベリ   ハヤカワ文庫  2100906



本の所持が許されない近未来、ガイ・モンターグは、密告を受けて書物を隠し持つ家に向かい、すべての本を焼き払う「昇火士(ファイアマン)」だった。日々淡々と職務をこなすモンターグだったが・・・。

先日NHK「100分de名著」で取り上げられていたのを見て、興味深い内容だったので読んでみた。
「本が禁じられた社会」とはいったいどういうものなのか、と思ったけれど、本どころか活字さえ無くしてしまえば人の思考は限られたものになり、余計なことは考えず馬鹿になり、つまりは国家にとっては好都合、ということなのでした。恐ろしい。
その恐ろしい統治のための手段として本を見つけては焼くという職業のモンターグが、隣に住む不思議少女クラリスの影響もあって書物の魅力に取りつかれてゆく。



ネタバレあります



かなりショックだった場面がいくつかあるのだけれど二つほど。

冒頭近くのクラリスの台詞。
「遠いむかし、ファイアマンっていうと、火をつけるんじゃなくて火を消すのが仕事だったんですって。そんなこと聞いたけど、ほんとうなの?」

思わず「ちょっと待ってください」と言いたくなるほど常識がひっくり返されてしまった。

もうひとつはモンターグと妻ミルドレッドの二人ともが二人の出会いを覚えていない、ということがわかる場面。

モンターグが、彼らがどこでいつ出会ったかを問うと

「それは、あのー。わからないわ」

そして驚くべきことにモンターグ自身も覚えていないという事実。

大多数の人々が各家庭の部屋に設置されたテレビ画面に夢中になって頭が空っぽになってしまった社会。
でもそのテレビ画面は今でいうインターネットだし、何か言えば何か言われるから面倒になりそうなことは言わないし、見せないし、やらなくなりつつある現在、もうすでにこの小説に近づいているのでは。





マチネの終わりに   平野啓一郎   文春文庫  2100705



この著者さんのツイートをちょいちょい見かけるのだけど、そのどれもこれもが納得できる内容だったので、さてこの方はどんなお話を書くのかな、と思ったので読んでみました。

高校在学中からクラシックギタリストして名の知れている蒔野聡史と、海外で活躍するジャーナリスト、小峰洋子。人生半ばに訪れた二人の出会いとその後のくっつきそうなのに 決してすんなりとはいかない物語。

純文学の作家さんということしか知らなかったので、最初は構えてしまいましたが。だって、昔、純文学読んだ人から「主人公が出かける場面なんかさ、まず部屋の描写が何ページもあってなかなか家から出ないんだよ。それで、商店街を走るシーンなんか、両脇のお店一つ一つの描写が異常に細かくて、ちっとも走ってるような感じじゃないんだよね」なんて言ってたから。
なのでちょっと構えてしまったけど、読み出したら全くそんな心配はいらなかったので安心。むしろ、次どーなんのかな?、二人はいつくっつくんだ?、と仕事中も気になって仕方なくなるお話でありました。
立場も活躍する場所も全く違うけれどお互い相応しいパートナーとしてせっかく知り合えたのに、あまりにも残酷な運命。
こういう、あんまり感情移入しちゃう話だと「変な出来事なんか起きなくていいから、早く一緒になってめでたしめでたし、でいいのに」と思ってしまうのだけど、やっぱり起きてしまうのでした。二人にとって最悪の出来事が。
「なんでそんなことすんだよ!」って読んでる電車の中で声に出しそうになったくらい。
ラストも絶妙な終わりかた。読者に委ねるような。





書店主フィクリーのものがたり   ガブリエル・ゼヴィン   ハヤカワ文庫  210517



ある頑固な書店経営者の物語。けっこう重い出来事が起こるのだけれど、どこかあっけらかんとした感じで話は進む。
そもそも、主人公が書店を一緒に始めた最愛の妻、ニックが冒頭から不在。少し前に事故で亡くなってしまっているし。
そして、追い討ちをかけるように、何よりも大切にしていたコレクションの古書が消えてしまったと思ったら、小さな女の子が自分の店に捨てられているではないか!?

これは、いいお話だった。読んでよかった。ふとしたきっかけで手に取ったけれど、あの偶然がなかったらこの読み終わった何とも言えない気持ちを味わうことはできなかったのだと思うと、本当に幸運だった、と思える1冊。
ハッピーエンドではないのに、いや、あれでハッピーエンドなのだ、と思い直すような不思議なお話。






本屋を守れ   藤原正彦   PHP研究所  200720



個性重視の教育は失敗だった。このままでは日本はダメになる。ではどうすれば?答えは小学校での国語教育の徹底あるのみ。そしてそれにはとにかく読書、読書、読書。本さえ好きになれば、知識も教養も身に付くのだ、という著者の主張がこれでもかと炸裂する一冊。
小学校から英語を習わせる必要なんか無く、タブレット端末の配布なんかもってのほか。さらには町の書店の大切さ、などなど「うんうん」と頷きながら読む箇所多数。だからこそ一書店員にとってこの本は、せっかく来てもらったお客さん(特に小学生さん)にがっかりされないような店づくりをしなきゃ、と思わせる一冊なのでありました。






夏への扉    ロバート・A・ハインライン   ハヤカワ文庫  200614



1970年、発明家ダン・B・デイビスは、協力して起業した親友マイルズと、美貌の婚約者ベルとともに絶好調な日々を過ごしていた。が、突然その二人の狡猾この上ない裏切り行為により絶望のどん底に突き落とされる。そんな彼が決心して向かう先は30年後の未来!?

序盤から主人公が途方に暮れてるんだけれどそれもそのはず、素晴らしい発明品の数々によってこれからさらに大きくなるはずの会社を、相棒だと信じていたマイルズと、婚約者ベルに「計画的に」乗っ取られたのだから。
そんな目にあったら一週間は寝込んじゃって部屋から一歩も出られなくなっても不思議はないのに、主人公の語り口がなんともすっとぼけていて呑気にも思えてしまうところもあるので、読んでるこちらはそれほど絶望感を感じない。それはもしかしたら、いやきっと、真の相棒である猫のピートがいるからに違いない。
まあとにかく、見事にしてやられたダンは「冷凍睡眠」で30年後に蘇る。最初は世の中の変化に戸惑いながらも徐々に順応してゆくダン。やがて彼はある計画を立てる・・・。

その計画っていうのが、人によってはご都合主義と言うのかもしれないけれど、私としては大満足。そこまででもかなりのドタバタ劇なのに、彼の次の一手によってさらにさらに面白くなるのだから。そして終わり方が最高にハッピーなのですよ!ぜひとも読んで欲しいのでこれ以上はバラしません。





ライオンのおやつ    小川糸   ポプラ社  200608



職場の方がすすめてくれました。感謝です。

人がこの世に誕生するのと同じくらい重大な、この世から去る、という大きな大きな出来事がこれほどまでに柔らかいお話になっているのに驚くと同時に、雫さん、お疲れさまでした、と素直に思える一冊でした。






アクロイド殺し    アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫  191029



 キングス・アボット村で、ある裕福な未亡人が殺されたのに続いて、これまた富豪で、彼女との再婚も噂されていたロジャー・アクロイドが刺殺される。
越してきたばかりの元探偵エルキュール・ポアロが村の医師ジェームズ・シェパードとともに捜査に乗り出すのだが・・・。

 この作品、なんでも発表当時はトリックがフェアではないのでは?という論争を巻き起こしたそうで、一体どんなトリックなのだろう、とずーっと気になってました。
 さて、読んでみたら確かに驚愕の真相でした!が、ポアロが真相を見破った後の「結末」にはおおいに考えさせられました。ポアロがそんなこと言っちゃいかんでしょっ!と思う反面、いや、そうでもしなきゃ「完全な解決」には至らないしなあ、とか。ああ、いろいろ言いたいけど、ここでいうわけにはいかないのがもどかしい!!ぜひ読んでみてください。



タイムマシン    ウェルズ   光文社古典新訳文庫  191029



 19世紀の終わり、ある著名な科学者が友人たちを招いて風変りな冒険譚を語っていた。なんと彼は時間を移動できるマシンを作り上げて、たった今、80万年後の世界を見てきたというのだ。そこは緑豊かで温和な人々の暮らすユートピアに見えたのだが・・・。

 あまりにも有名なこの作品を今頃になって読んでみました。そしたら、19世紀に書かれたものなのに、全然古臭くないどころか「えっ、それでどうなんの?」と続きが気になって仕方のない大満足なお話でした。
 まさかのああなってしまった未来社会の説得力!特に「格差社会」とか「二極化」とかいう言葉をよく見かける今日この頃にはもってこいのお話でもあるのでは?
 SF小説ではあるけれど、作者は「『SF』ってのはただ斬新なものを出すんじゃなくて、その内容から読者に、現在の社会を考えるきっかけを与えるように書くもんなんだぜ」と言ってるように思う。
 1950年代にジョージ・パルが映画化したものをもう一回ちゃんと見たくなってきた。主人公が未来で出会うウィーナがどんだけ可愛かったかを確かめるためにも。ラストシーンも、小説版のものをちょっと洒落た感じに変更してたような。  



ひと    小野寺文宜   祥伝社  190815



 ごく普通の大学生、柏木聖輔。何事も無ければ、普通に大学生活を続け、普通に就職してたはず。しかし、高校生の時に父親を事故で亡くしたのに続き、母親までも失ってしまい、中退することになる。
生活費を切り詰める日々、ただぼんやりと歩いていた商店街で聖輔がひきつけられたのは、惣菜屋から漂ってくる揚げものの匂いだった・・・。

 職場の方に勧められたので読んでみたらこれが大当たり。読み出してすぐに「お、これは『つかみはOK!』だな」と思ったのだけど、その状態がずーっと続いて、自分にしては短い時間で読み終えてしまった。
社会人になる前に両親を失ってしまうという出来事に見舞われてしまった聖輔だけど、やけくそになるわけでもなく、だからこそ失ったものと引き換えに、とてもとても大切な、かけがえのないものを得られたのか、と思う。
やけくそにならないどころか、細かなことに気づくことのできる彼だからこそ、いちばん大事な「ひと」と出会えたのだろう。
たぶん、おそらく、きっと、いや必ず、聖輔は立派な人物となって彼の選んだ道で活躍することになるのだろうけれど、潔くてスパッと、さっぱりしたあのラスト、素晴らしすぎるっ!!!




昭和元禄落語心中    雲田はるこ   講談社  190408



 出所したばかりの男が、服役中に慰問講演で見た名人、有楽亭八雲の落語に衝撃を受け、弟子入りを決意。八雲は弟子など取らない主義であったが・・・。

 去年(2018)の後半、たまたまテレビでこの漫画を映像化したものの第一話を一目見ただけで、テレビの前から離れられなくなってしまった。滅多に無い、これは絶対に見ておかなければ、という感覚。これこそがテレビドラマだっ!というクオリティの高さに圧倒されて結局全話見てしまった。
そして、職場のの同僚さんが貸してくれた原作コミック全10巻を読んでみたら、あのドラマって、よくもまあ原作を大事に丁寧に映像化したんだなあ、と改めて感じた次第です。
 落語そのものの存続の話でありながら、過去に起きた重大な出来事をめぐるミステリーでもあり、各人の成長、老いの物語でもある深い大河ストーリーでありました。
 それにしても、年代記ものでこんなにグッときたのは「スターウォーズ サーガ(アナキン6部作)」と「ゴッドファーザー サーガ」以来でしょうか。



幻の女    ウイリアム・アイリッシュ   ハヤカワ文庫  190312



 奥さんと喧嘩して家を飛び出した男が一杯ひっかけに飲み屋に入ったら一人の女性がカウンターにいて、とりとめのない会話なんかをしてたのだけど、奥さんとその晩に行く予定だったショーのチケットもあるしせっかくだし、思い切ってその女性を誘ったらOKもらったので、飲んで劇場に行ってショーを楽しんで・・ただし、それ以上は何事も無く、お別れして帰宅、してみたらなんと妻が絞殺されていた・・・。もちろん彼にはアリバイがある。ついさっきまで飲み屋と劇場で一緒に過ごした女性に証言してもらえばよい話。が、お互い名乗らず、プライベートな話は一切してないので彼女を探すことができない。このまま時が過ぎれば彼は死刑・・・。

この本の目次、「1.死刑執行前 百五十日 午前六時」「2.死刑執行前 百五十日 深夜」「3.死刑執行前 百四十九日 夜明け」「4.死刑執行前 百四十九日 午後六時」「5.死刑執行前 九十一日」「6.死刑執行前 九十日」・・・・といった具合に、ただひたすら死がせまってくるだけなのですよ。
つかまっちゃった後は、主人公スコット・ヘンダーソンは牢屋から出られないから、まさかずーっと主人公が困っちゃってる様子を描くのかと思いきや、担当刑事の助言で強力な助っ人、スコットの親友ジャック・ロンバード登場!
が、彼が親友の無実を勝ち取るために必死になって「幻の女」を探すのだけど、あと一歩のところでたどり着くことができない、もどかしい! いくら何でも主人公がそのまま死んでしまうわけはないよな、とか思っちゃったり。
そしたらなんと、最後には「これこそミステリ小説のどんでん返し!」という見事な結末が待ち受けていたのでありました!!



盗まれた街    ジャック・フィニイ   ハヤカワ文庫  190204



 田舎町サンタ・マイラで不思議な症状の患者が多数現れ始めた。彼ら、彼女らは、一緒に暮らしている家族や親しいはずの友人らが以前からの家族、友人ではなくなっている。姿、形、しぐさはもちろん、ずっと昔の出来事についての記憶も確かにあるにもかかわらず、あれは別人だ、と言うのだ。

 侵略テーマSFの古典とされる本作、2度目の映画化版は録画して何度も観たのだけど、読んだのは初めて。
 原作の主人公マイルズは映画のドナルド・サザーランドに比べてかなりとっつきやすい印象。もちろんこの小説がマイルズによって語られるからであるけれど。それだからこそ、幼なじみのベッキー・ドリスコルへの想いも伝わってくる。
 冒頭、開業医マイルズを訪れた困った様子のベッキー。話を聞くと、ベッキーのいとこのウィルマが、一緒に暮らしている叔父のアイラがアイラではないと言い出しているという。不可思議な現象だけれども、何とかして力になりたいというマイルズの頑張りは応援したくなる。
 やがてわかってくる、立ちはだかる問題があまりにも大きいことがわかってきても、ベッキーのため、人類のために最後まであきらめないマイルズには大大大「あっぱれ」をあげたいところ。あと、映画化版と結末がまるで違うのにびっくり!!
ちなみにこの写真の表紙もオビも、さっきお話した映画版のさらに後にリメイクされたものなので原作のイメージとは違います。



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