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「夜のピクニック」 恩田 陸  新潮社

生徒全員が夜通し歩く「歩行祭」。それは、ある高校の伝統行事。3年生の西脇融にとって最後の参加だ。親友の戸田忍とともに、様々なことを語りながら、夜の道を歩き始める。高校生活を終えようとする今まで、お互いに言葉を交わすことの無いままだった同級生、甲田貴子と同じ「秘密」を抱いたまま・・・。

本屋大賞を受賞したという本作、若者たちが、あれやこれやと高校生活を振り返り、また、将来の希望を語り合ったり、夜道で出会う人とのハプニングあり・・・、というのを勝手に想像していたが、そんなお気楽な娯楽作品とはちょっと違い、西脇融と甲田貴子が共有しているある重たい「秘密」が徐々に明らかにされてゆき、お互いの、すっきりしない思いも露わになってゆく。
融の親友、戸田忍や、貴子と一緒に歩く遊佐美和子その他の仲間たちとの会話が、変化してゆく景色とともに交互に描かれてゆき、読んでる自分も、一緒に歩ってる気分にさせてくれる。何よりも、最後のサッパリした終わり方が、「あーっ、歩きと通した!」という感じにさせてくれる。

そういえばこないだ、仕事の帰り道、ゼッケンをつけて夜道を歩いている高校生くらいの男女4人くらいのグループを見かけたことがある。10時半くらいだったか。そしてそういうの何組かと出くわしたとので、ほんとに「歩行祭」のようなことを実施している学校があるのかな、と思った。ただ、住宅街ばかりの道を歩くのはちょっとつまらないかも、と思ったものの、自分もいつか、限界まで歩いてみようか、と思わせる一冊だった。 (20101206)



「海燕ホテル・ブルー」 船戸 与一  角川

現金輸送車強奪に失敗、5年の刑期を終えた藤堂幸夫。彼には、刑務所にいる間、ずっと心に秘めていたことがあった。出所したら必ず実行しなければならないある計画が。

以前に読んだ船戸作品と違って、今回は舞台が全編日本、伊豆の下田。しかも、国家や革命といった要素も無し。いったいどんな話だろうか、と思いページを開くといきなり刑務所の描写。5年の刑期をちょうど終える主人公、藤堂の一人称で物語は始まる。
出所した絶対にらやり遂げるべきことがあったのに、ある女の出現により徐々にそれが崩されてゆく。どうしようもないままに。その女、韓国からの密航者、金梨姫にさえ出会わなければ、あそこまで落ちることはなかったのに・・。と思ってしまうが、出会わないとお話にならないか。彼女こそがいわゆる「魔性の女」というやつか。

脇役(?)として、藤堂が下田で出会う水産業者、勝又玄作という人物が登場するけど、つぶれたホテルを改装して、不登校児などを集めて自活させ、現代の弱者のための「共和国」を作ろうという野望をもってたりして、かなりいい味だしている。
海外の紛争地を舞台にした、いつも通りの船戸作品を期待した人にはあまり評判がよくないようだけど、自分は大満足。クライマックスに向かうにつれて、あれあれどうなっちゃうの、という感じでするするとあっという間に読んじゃった。 (20101115)



「黒澤明 VS.ハリウッド」 田草川 弘  文春

巨匠、黒澤明が完成させることができなかった日米合作映画、「トラ・トラ・トラ!」。
プロデューサー、エルモ・ウイリアムズは尊敬する黒澤に日本側シーンの脚本、撮影を任せるべく努力し、黒澤もあの真珠湾攻撃を「騙し討ちだ、なんて言わせない」「あの戦争は、日米両国の誤解の記録であり、優秀な能力とエネルギーの浪費の記録だ」「歴史にドーン、と残る、どっしりした映画を作る。百年や二百年で古くなるようなものは作らない」と制作意欲を燃やす。
が、しかし、制作発表から1年8か月後、黒澤は監督解任を言い渡される。いったい何が起こったのか・・・。

これは、ただただ残念としか言いようのない事件だ。単なる娯楽ものとしてではなく、真正面から戦争という悲劇を描こうとありったけの情熱を注いで脚本を完成させ、キャスティングにもこだわりぬき、撮影開始までいったのに、解任という結末をむかえるとは。
黒澤に日本側パートを依頼したエルモの奮闘を中心に、著者が徹底的に調べた事実が語られてゆき、何箇所かは黒澤脚本、ときには絵コンテも紹介される。まさに読み応えあり。だからこそ、幻の黒澤版が観たかった
(20100912)



「パプリカ」 筒井康隆  中央公論

美貌のセラピスト、千葉敦子。彼女は夢探偵「パプリカ」となって、患者の夢へ入り、治療を行うことができた。一方研究所の同僚、時田浩作が互いの夢を同時に共有できる機器「DCミニ」を開発するが・・・。

他人の夢に入り込む、なんていくらなんでもそんなことは・・という思いもあってこの小説、知ってはいたけれど読まないままだった。が、アニメ化されたのを観て、すっかりその作品世界に引き込まれてしまい、ちょっと厚めだけど買ってみたら大当たり。(アニメ版はかなり変更入ってるけど)

千葉敦子や時田浩作が勤める精神医学研究所内や、パプリカの患者である会社重役の能勢龍夫をめぐるちょっとギスギスした人間関係などから描かれていくため、話が進んで「DCミニ」が登場しても全く違和感が無い。それどころか、続きが気になって仕方ない。さらに夢と現実がごっちゃごちゃになってくると「いくらなんでもこんなこと」とか言ってる場合ではなく、ただページをめくるだけになってしまう。

誰でも思うことだろうけど(男性なら)、パプリカに一度診てもらいたいや。 (20100816)



「星守る犬」 村上たかし  双葉社

こんなことではいけないのですが、何も書けません。(20100801)









「運命のボタン」 リチャード・マシスン  早川書房

「この箱についているボタンを押すだけで大金が手に入ります。ただし、世界のどこかの、あなたがたの知らない方が一人死にます。」
そんな奇妙な奇妙な申し出を受けたある夫婦。夫は相手にしなかったが、妻は・・・。

SFとも何ともいえない異様な出だしのタイトル作を含む短編集。あの名作テレビシリーズ「トワイライトゾーン」で映像化された「2万フィートの悪夢」(飛行機が苦手な男が、飛行中の翼の上にいる何者かがエンジンを壊し始めるところを目撃してしまう)も収録。

ボタンの話なんか、「そんなことあるわけないじゃんか。でも、自分だったら押しちゃうかな、どうしようか」と考えてしまうし、飛行機の話も、主人公一人にしか翼の上の怪物が見えず、スチュワーデスを呼ぶと、視界から消えてしまうもどかしさが何ともいえず、読んでいて楽しい。

「四角い墓場」は、ボクシングが禁止され、ロボットのボクサーが人間の代わりに戦う近未来、旧型のポンコツロボットでなんとか一旗揚げようとふんばる男のお話。彼は、相棒の整備士と、再起を賭けた試合会場になんとかたどり着くが、試合直前にロボットが壊れてしまう。そこで彼は無謀な作戦を思いつく・・。
生身の人間どうしのボクシングが禁止されている、という設定も面白いけど、やっぱりこのお話、そんなことより、どんな逆境でも立ち向かっていこうとする不器用な男を描きたかったんだな、と思った。(20100730)



「告白」 湊かなえ  双葉社

中学校のプールで一人の少女が水死体となって発見された。少女の母親はその中学校の女性教師。彼女がホームルームの時間に生徒たちに語りだした「告白」とは・・。

あまりに売れまくっている小説で、映画化もされ、そちらも評価が高いみたい。
最近、特に多いある種の殺人事件についてのお話だけど、作者さんはこういう事件が起きるたびに大いなる怒りをおぼえていたのではないかと思うがどうか。
現実に、ご家族などを亡くして、やりきれない思いをずっとずっと抱えたまま過ごさなければならない人たちが大勢いる社会って、「社会」などといえるものなのか、と考えてしまう。(20100705)



「Love,Hate,Love」 ヤマシタトモコ  祥伝社

バレエの道を諦めた28歳の女性と、初老の大学教授との出会い。

このコーナー初のコミック。朝日新聞のいくつかある書評のうち、コミックを取り上げる欄で紹介されていたのがどうにも気になってその日に他店で購入。

幼いころからその道のプロを目指して頑張ってきたことを道半ばで諦めるということはどれほどに心がかき乱されることなのだろう。家族はもとより、一緒に支えあってきた仲間、指導し続けてくれた人たちにとってもただ事ではないはずだ。
そういうもの全てを振り切って全く新しい生活に飛び込むときの不安と期待、そして、そんなときに出会えた人物との、地味でも穏やかで、あたたかい感情の交わり・・・。
普段、なかなか味わえない新鮮な感動を、ふとしたきっかけで手にした一冊のマンガから与えられた。絵も気に入った。(091002)



「平台がおまちかね」 大崎梢  東京創元社

中堅出版社の若手営業マン、井辻くんが出くわす、書店ならではのミステリーの数々。

この作家さんの以前の作品、「配達あかずきん」などは、主人公が女性書店員さんだったけれど、今回は立場が変わって、出版社の営業さんが主人公で、新米の男性という設定。
買ってしばらくは、家帰ってきてまで書店が舞台の話なんか読む気にならないやモードだったのだけれど、ふとしたきっかけで読み始めてみたらやっぱり面白い。自分にしては早く読み終わった。
新刊でも、話題本でもない本が、ある一書店だけで売り上げを伸ばしているのは何故・・・。
誰も気づかぬうちに平台のある本が移動し続けているのは何故・・・。

といった、書店関係のひとしか興味をひかれないようなストーリーばっかりなのだけど、だからこそいいのだと思う。(090629)



「恋文の技術」 森見登美彦  ポプラ社

地方の実験所に飛ばされた大学院生、守田一郎。彼は文通という手段によって、世界征服を目指すだの、どんな美女でも落とせる手紙の技術を身につけるだのと言って、故郷である京都に残してきた親友(?)、いじわるな先輩、生意気な妹、家庭教師をしていた少年たちと文通をはじめる。

いやあ、斬新で楽しくてなんといっても読みやすい。しかも何度も読み返して楽しめそうな本だ。最初読みだしたうちは、さて、これがどういうふうに展開していくのかなと思っていたら、まさかああくるとは、やられました。驚かされました。なるほど、そうきましたか、という感じ。
「四畳半神話体系」のときも同じような驚きを味あわせてもらったけれども、今回も、こんなことよく思いついたなあ、とただ感心するばかり。もちろんアイデア一発というわけなんかではなくて、お話(?)自体も面白いし、いつものように笑いどころのたっぷり詰まった小説です。結末もグー。
どの章もよかったけれど、とくに大笑いしたし、意外にもせつなかったりしたのが少年「まみやくん」への手紙の部分か。
主人公、守田一郎もそうだけど、特に「史上最高厄介なお姉さま」こと、大塚緋沙子様がどんな女性なのか一度会ってみたい。いや、おそるおそる物陰からそうっとのぞくだけでかまいません。(090524)



「地球の静止する日」 ハリー・ベイツ他  角川

古くは「トワイライトゾーン」、「アウターリミッツ」といったテレビシリーズ、最近ではキアヌ・リーブス主演でリメイクされた表題作など、映像化されたSF作品の短編集。
帯にキアヌ・リーブスの顔があるけれども、確か映画版と原作では話が全く違うような・・・。映画を見てこの本を読んだ人は「あれっ」ってなるのではなかろうか。
とはいえどちらがダメ、とかいうことではなくて、事件の発端は同じでもその後の展開が違うので別作品として楽しめるはず。映画版は旧作をだいぶ前に借りて見ただけでほとんど忘れてしまったけれど、この小説版のラストにはちょっとした驚きが待っている。
宇宙人、複製人間、時空のひずみ・・・、といろんなタイプのSFが詰まっていて、それぞれのオチに「やられた」と思いつつ 「お次はどんな話を読ませてくれるんだい」といったふうに楽しませてもらえた。
ラストにフレドリック・ブラウンの「闘技場」(ARENA)をもってきてくれたのはファンとして嬉しい。(090309)



「砂のクロニクル」 船戸与一  新潮社

かつて一度は共和国を作り上げるも、わずか11ヶ月でイラン政府に潰されたクルド人。今再び、聖地マハバードを奪還すべく、日本人武器商人「ハジ」に2万もの銃の手配を依頼するが・・・。

とはいってもこのお話、大量の武器を依頼するクルドゲリラだけが主人公というわけではない。確かに、イランクルドのゲリラの一員、ハッサン・ヘルムートという、揺ぎ無い信念を持った青年は登場する。が、それと同等に活躍する男たち(あるいは女)が幾人か出てくる。
ハッサンと対立する立場、すなわちクルド人の独立を絶対に阻止せんとする、イランの革命防衛隊員サミル・セイフ、謎の女シーリーン、そして日本人武器商人、ハジ。
それぞれの行動、思いにたっぷりと頁が割くためには確かにこの分厚い上下巻が必要だろう。が、彼らが織りなす物語にどっぷりとつかって読んでいる、という余裕はそこには無い。常に緊張感の持続を強いられるからだ。自分などは、うっかり昼休み中、買ってきた弁当を食べながら読んでいたところ突然凄惨な場面に出っくわしてしまい、おおいにうろたえてしまった。あー、あのときはびっくりしたよ。
この作家さんの本を読むと、激動の世界の中で日本はなんとのんきなのだろうかと思ってしまう。また、ふと、何をするでもなく日々を暮らしていた学生の頃、親父に言われた「ただのんべんだらりと過ごしていたってだめだぞ」という言葉を思い出したりもするし、だらだらと長く暮らすのと、自らの信念を貫いて短くても潔い生涯を生ききるのとはどちらが・・・、などということにもほんの少しだけ、考えがいってしまう。 (090212)



「天の光はすべて星」  フレドリック・ブラウン  早川書房

宇宙への憧れの塊のような元宇宙飛行士マックス・アンドルーズは、停滞した宇宙計画の突破口ともなる、木星友人探査計画を公約に掲げる女性上院議員候補、エレン・ギャラハーに近づき、何としてでも人類は宇宙へ旅立つべきだという想いを語り、彼女を当選させ、計画を実行に移すべく奮闘するが・・・。

しかしこの主人公、現役を退いているという設定で、年齢はなんと57歳。それでも一人称で語られる物語は少しもヨボヨボ感は無く、むしろてきぱきしている。
SF小説とはいえ、今回は宇宙人、多元世界といったことは皆無で、ただひたすら「宇宙へ行きたい」という熱烈な欲求で動くマックスの行動だけがある。そしてマックスのやること一つ一つにいちいち応援し、喜び、場合によっては一緒に落胆する。読み終わった充実感は計り知れない。
ところで気になったのは、この小説が長いこと絶版扱いだったということ。納得いかない。
もう一つ、「巻末エッセイ」というのがこの復刻版にあるが、なじみの無いことばかり書いてあって、できれば作品自体について、あるいはブラウンについてのことを読みたかった。 (081115)



「新宿・夏の死」  船戸与一  文藝春秋

夏の新宿。男、女、そして「おかま」たちが遭遇するいくつかの事件を描いた短編集。理不尽な仕事をさせられ自殺へと追い込まれた息子の復讐をとげようとする父親、若さゆえのエネルギーを持て余し、非合法な組織の一員となり「仕事」としての殺人に手を染める青年、上京したものの思い描いていた生活をおくれず、知り合いがやっているぼったくりバーの手伝いをしている若者・・・。

誰もが思うように前に進めず、もがいているうちにさらにこんがらがってしまい、舞台が真夏の新宿なだけに余計に焦りが伝わってくる。ここまでドラマチックでなくても、現実に非情で過酷な出来事は毎日起きているのだろうと思う。新宿という街では。
学生のとき、飯田橋にある某大手取次ぎにバイトに通っていた時期、西武新宿線からJRの新宿駅への地下通路を歩いていたら、ちょっとこわそうなおじさんに「にいちゃん、運転免許持ってない?いい仕事あるよ」と声をかけられた。とっさに「持ってないんですよ」と答えたら「そうかぁ、じゃ、なにかあったらいつでも言ってくれよ」とか言って雑踏の中へ消えていった。あのとき「持ってます」と答えてついて行ったらどうなったのだろう。
(071231)



「夕凪の街 桜の国」  こうの史代  双葉社

10年もの月日が流れても、「そこ」にいた者のドラマは終わらない。そしてまたさらに時が過ぎても。

33ページの主人公のセリフ、米軍に聞かせてやりたい。
(070929)









「猛き箱舟」  船戸与一  集英社

「平凡な人生なんかまっぴらだ!」香坂正次が選んだ道は、海外へ進出する日本企業を、非合法な手段で裏で支えてきた隠岐浩蔵、通称「灰色熊(グリズリー)」の配下となり、戦火をかいくぐり、やがては一級の存在になることだった。
そして香坂正次の最初の仕事は、大企業、大東洋金属が試掘を開始した西サハラのある鉱山を、ポリサリオ解放戦線と呼ばれるゲリラ組織から守ることだった。

平凡なサラリーマンで一生を終えるなんて・・、という思いの就職前の若者はいくらでもいるだろうけれど、ここまで行動する人はどれくらいいるだろう?もちろん、海外進出企業の守護神、隠岐浩蔵という存在は架空のものだけど。
でもニュースでテロの報道ばかり流される今となっては、政府が極秘にその手の組織に日本企業を支援を要請していても不思議ではないような気してしまう。

この本、もう何回か読んでいるけれど、こんなに分厚くてしかも上下巻!それでも、結末がわかっていても読み返せるのは香坂正次というキャラクターにどっぷり感情移入できるからだろうし、隠岐浩蔵という圧倒的な存在感もあるだろうし、全く油断できない出来事の連続のストーリーにもあるだろう。ほんと、零細企業でコキ使われている一労働者には、普段の仕事場から灼熱の西サハラへと誘ってくれる貴重な一冊。
(070929)



「かび」  山本甲士  小学館

地元の大企業の研究部門で働いていた夫が脳梗塞で入院してしまった。妻、友希江は、労災申請をさせずに泣き寝入りをさせようという会社側の思惑に反発し、あの手この手で報復にでる。

実際、仕事中に倒れてしまう人ってかなりいるんじゃないだろうか。そしてその家族、何もできずに会社の言いなりになっているケースもたくさんあるんじゃないだろうか。
今までに聞いたことがあるのは、ある書店チェーンの一店舗で毎日働きづめだった店長さんが、事務所からなかなか出てこないので誰かが見に行ったら、中で倒れていた、という話。それを知ったその従業員さんは、こんなとこにいたら自分もああなる、と思い違う書店に転職したそうな。他人事ではないかも・・。
そんなことよりこの小説、主人公である友希江が、どんどこどんどこ「報復」を重ねていくこと自体、犯罪ではあるけれど、夫が会社に「つぶされた」ことに対する仕返しなので読んでる方としても十分感情移入してしまう。大企業なんて、この話のようにろくなもんじゃないところがけっこうあるのでは、とも思う。
だからといって小さい会社が全て良い会社だとは決して思わない。
(070820)



「サイン会はいかが?」  大崎梢  東京創元社

成風堂書店に起きる「書店ならでは」の事件の数々を描くシリーズの第3弾。

表題作が一番長めで読みごたえあったけれど、一発目の「取り寄せトラップ」の出だしで示される「謎」に一気に引き込まれた。

同じ時期に全く同じ書籍を注文した4人の人物。その書籍が出版社に品切れで注文できないことを電話で伝えたところ、4人全員が「そんな本を頼んだ覚えは無い」との返答・・。

うーん、「書店ならでは」の謎だ。
そしてその謎(他の話のも全て!)を鮮やかに解くのはおなじみの女子大生バイトの多絵ちゃん。しかし、いずれ彼女が就職していなくなっちゃったら、いつも多絵ちゃんにおんぶにだっこの主人公、杏子はいったいどうするのだろう・・。ウラでこっそり小遣いあげて来てもらうのか?(謎解きのときだけ) (070712)



「チルドレン」  伊坂幸太郎  講談社

やることなすこと、鋭いのかトンチンカンなのか判然としない陣内と、その仲間たちに起こる一風変わった出来事を描いた五つの連作短編集。

とにかく陣内のキャラクターが読んでいて楽しい。とっくに慣れているはずの仲間も、毎度の彼の行動、言動にはあきれ、かつニヤリとしているに違いない。
特に気に入ったのは「俺が失恋したから世界は止まったんだ」と言い出し、いちいち証拠をあげて時間が止まっていることを証明しようとする「レトリーバー」。
ばかばかしいと思う内容だけど、陣内の説明を聞いていると「え、ほんとに止まっちゃってんの?」というお話。もちろん、SFではないのでちゃんとした答えがあって、「なーるほど」となります。(070712)



「影踏み」  横山秀夫  祥伝社

住人が寝静まった深夜に忍び込み盗みを働く「ノビ師」、真壁修一は、出所を迎えたその日から自分が捕まった2年前の事件の不審な点について独自に調査を始める。

この作家さんは警察官を主人公にした小説を書く人、というイメージがあったけれど、今回は何と泥棒が主人公。その彼が次から次へと出てくる謎を解いていくのを「あっ、そうか」と遅れて気づきながら読むのは楽しい。ひょっとして彼は早く足を洗って探偵にでもなった方がいいんじゃないか、とも思ってしまう。
一番驚いたのは、まさかと思うような主人公のある設定。こういうのがダメな人はいくらこの作家さんが好きでも絶対にこの作品は認めないんだろうなあ。自分はOK。(070708)



「太陽の塔」  森見登美彦  新潮社

せっかくできた恋人の水尾さんにフラれた、妙に理屈っぽい京大生の「私」が京都の街を右往左往する。

ちょっと前にうちの職場に入ったアルバイトくんに教えてもらった本。
主人公は超理屈っぽいけどその語り口がいちいちおかしい。「日本ファンタジーノベル大賞受賞作」らしいが、別に異世界も魔法も出てこないので「ファンタジーはちょっと・・」という人にもおすすめ。(070624)



「星新一 一〇〇一話をつくった人」  最相葉月  新潮社

ショートショートを書き続けた作家、星新一。彼が残した創作メモや下書き、家族や同級生をはじめ出版関係者など膨大な数の資料や証言をもとに、その生涯をたどる。

小学生のころから何度も何度も読み返したほど好きな作家の人生について知りたいか、と言われれば答えはもちろんイエスだけれども、やはり作家の人生そのものは、その作品のように読んで楽しいだけというわけにはいかない。知りたかったけれども、知らないままの方がよかったか、と思ってしまうような寂しいエピソードもけっこうありのノンフィクション。
でも、子供の頃にあの、ショートショートという短いお話にワクワクさせられた人はぜひ読んでおきたい一冊。
それにしても、アメリカとの戦争が始まったときに「これで英語の勉強をしなくていい」と考えたとはさすが。(070624)



「夢は荒れ地を」  船戸与一  文藝春秋

自衛隊警務隊の楢本辰次は長期休暇を使い、8年前に現地除隊したまま行方不明の元同僚、越路修介を探し出すためにカンボジアの地に足を踏み入れた。言葉さえ通じず右も左もわからない辰次は、案内人として現地の教師、ヌオン・ロタを雇い捜索を始めるが・・・。

読んでいて思うのは、今の日本は平和だ、ということばかり。別にこれ、昔の話ではないよな、と何回も思った。が、残酷にも冒頭にはっきりと「カンボジア 二〇〇一年」とある。
一番酷かったのは、無数に埋められた地雷について、その気になればどんどこ撤去できるのに、海外からの援助資金が途絶えないように許可を与えた者にしか撤去をやらせない、という現状。まったくもう。善意で寄付した人のお金なんかもきっと現地の高級官僚の飲み食いする金に変わってしまっているということか。
主人公、楢本辰次は「ある目的」を持ってカンボジアにやって来たが現地では戸惑うことばかり。そこで相棒(?)ヌオン・ロタが手助けしていろいろ教えてくれ、彼のカンボジアに対する思いも同時に語られる。
それと、重要な登場人物として、日本人でありながら現地の子どもたちにちゃんと教育を受けさせようとがんばる丹波明和と、カンボジアの未来を真剣に考えるある村の村長(といっても老人ではない)、チア・サミン。この二人についてもかなりの頁が費やされているので、これは単に「探す男」の物語ではなくて、それぞれの立場からみたこの国の現状が浮き上がってくるようだ。
もちろん辰次の目的である越路修介も後半から登場し、「こっちが主役か?!」というくらいの活躍をしてくれる。(070503)



「ネコを撮る」  岩合光昭  朝日新聞社

動物写真家岩合さんが、ネコや、ネコ写真の撮り方についてあれこれ語ってくれる本。

この新書ブームの中、朝日新聞社が新書を創刊すると知ったときは「またか」という感じがしたものだけど、創刊ラインナップの中にこのタイトルを見つけたときは「お、やるな」と思った。自分も興味あってしかも売れそうな気がしたから。
何十冊もというわけではないけど、他のタイトルよりは売れてるようだ。しかもたぶん新書コーナーよりもネココーナーに置いた方が売れてるかもしれない。
この本を教科書がわりにしてネコ写真を撮って、街から街をのんびり旅したいなあ、なんていうのは不可能だけどいつかやってみたい。(070430)
しおりがネコになってるのもおもしろい。



「黄色い蜃気楼」  船戸与一  双葉社

砂漠に墜落した旅客機の生存者、鶴見浩二にはなんとしてでも生き延びて果たさなければならないことがあった。彼は、他の生存者数名とともにカラハリ砂漠の厳しい環境に耐え、抜け出そうと試みるが、彼の命を狙う追っ手が迫っていることには気づいていなかった・・・。

久しぶりに読んだ船戸作品。相変わらず日本人が外国で大暴れ、といった内容で楽しませてくれるけれど今回は、鶴見浩二を追う方もわけありの日本人で、両方のドラマが交互に進んでゆく。
砂漠なんかで死ぬわけにはいかないという鶴見浩二。その目的を果たすことだけが彼の生きがいだということが。思っていた以上に、読み終わった後にしんみりと残る。(070401)



「女番社長レナ」  URA EVO  ペットライフ社

女ネコ社長レナと、彼女にこき使われる社員(人間)たちの日々を描いたドキュメント・フォト・コミック。

ネコの本って飼い方か写真集ばかりかと思ってたらこんなに楽しいのがあった。これは笑えた。全ページカラーだとよかったけれど高くなっちゃうか。
ネコはいつもすっとぼけた、というかまじめくさった表情で、何か考えてるとしか思えない表情をしてるから、適当にセリフ作ってくっつけるのってけっこう楽しい。(070316)


「包帯クラブ」  天童荒太  筑摩書房

タイトルは前から知っていたけれど、どういう内容なのかはさっぱりわからないままだった本。
こんなクラブがあったらそっと応援したい。「自分だったらどこにするかな」と」少しの間考えさせてくれる本だと思う。読んでよかった。
映画になったようだけど、昔だったら菅野美穂さんに主役を演じてもらいたかった。(070302)



「城」  カフカ  新潮社

仕事である村を訪れた測量士「K」。しかし依頼主の「城」からは具体的な指示も無いまま時間だけが過ぎてゆき、なかなか仕事を始めることすらできない。

ただでさえ読むのが遅いので特にこれは非常に長い時間がかかってしまった。役所なんて手続きばっかりで面倒くさくてかなわん、ということを言いたい本かと思ってたけど実際読んでみるとKとかかわる人みんな話が長いしこまごましたことばっかり話すし、とにかく「そんな理屈っぽい会話ばっかしてないで早く城に行きなよ!」と言いたくなるような小説だった。やっぱり自分には作品の言わんとしていることを読み取る、とかいった力は無いのかな、とあらためて思った。
あと、フリーダが最後どういう思いでいたかはぜひ知りたいところ。(070225)



「すて猫カテキン」  新美敬子  河出書房新社

それにしても、子猫ってこれだけかわいい顔をしてるのに、うちのりゅうも含めてなんでまたあんなにふてぶてしくなっちゃうのか謎だ。目がまんまるじゃなくなっちゃうからか。
まあ、ふてぶてしいところがまたおもしろいのだけれど・・。 (070112)





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