story2

結局飲んだ夜

   一時間位残業をしてから私は、同僚の誘いを断ってまっすぐ帰宅することにした。一杯やってから帰りたいのは当然だったが、明日が平日であることを考えると、どうしても家から離れた場所で飲むと、帰りが面倒になってしまうからだ。
というわけで私は今、帰りの電車のドアのところに立っている。車内を見ると、毎日の仕事に疲れた情けない顔ばかり並んでいる。まったく、どいつもこいつもつまらない顔をしておとなしく座っている。
 つい、魅力的な女性が同じ車両にいないかどうか見回してしまうのが自分の悪いくせだ。自分をはっとさせてくれるほどの女性、その視線だけで心ときめかせてくれる女性。
 しかしそんな私の欲望を満たしてくれる女性がいないことがわかると、私は視線を窓の外に移した。窓の外に流れるこの街のどこかに、自分の望むような女性がいるのかもしれない・・・。そんなことを考えているうちに電車は私の降りる駅へと着いた。

私は電車を降り、階段の方へと歩き始めた。
 まさにそのとき私は5メートル位先を優雅に歩いている女性の後ろ姿を発見したのだ。まったく、完璧なまでの女だと一目でわかる後ろ姿だった。
 曲線にぴったりと吸いついた黒い服。
 まったく、女というものはどうしてこんなにも男と違って造られているのだろう。
もし神が存在するのなら、宇宙の謎よりもそのことをまず聞きたいくらいだ。
 私は階段を登る彼女のすぐ後をついていった。
 確かに今までにも似たようなことはあったが、そのどれもは失望に終わっていた。
期待して女性を追い抜きそれとなく振り返る。と、そこにあるのは期待と違った顔、かなり自分の好みとは合わないというような顔だった、というのが常だった。
 しかし今度は違う、絶対に違う。私は決心して彼女の右後ろから徐々に階段を登るスピードをあげていった。すると、さっきまでその細くてやわらかそうな髪に隠れていた顔の輪郭が見えてきた。それほど化粧もしていないような肌は、黒い服と対称的に白く輝いていた。もちろんそのことは、さっき初めて彼女を見たときに目に焼きついた足から想像できたのだが。
 そして私は顔を前に戻し、彼女の少し先まで早足で登り、いよいよ彼女を振り返った。
美しく整った顔がそこにあった。しかし私は失望した。大きな失望だった。

どうしてこれほど美しい男がいるのだ。たとえ私が美しいと思うような姿をしていてもこいつは男だ。私をさっきから燃えさせていたものは何だったのか。
階段を登りきったとき、私はそいつがどの出口へ行ったかなど気にすることなく、一人ぼうっと立っていた。
「あれ、関谷じゃない?」
  学生時代の友人が近づいてきた。
「ああ、久しぶり。元気だった?」
  私が聞くと、友人は答えた。
「うん、結構いろんなことがあったよ」
  私は提案してみた。
「ちょっと飲んでいこうか。せっかく会ったんだし」
「いいねえ」
  というわけで結局私は飲んで帰ることになった。まあ、家の近くだからいいか。
それにさっきのちょっとした不愉快な出来事の埋め合わせにもなるかもしれないし・・・。
  そして久しぶりの友人と、女子校時代の思い出話をしながら酒を飲んでいる。

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